フラット登山|佐々木俊尚
子どもの頃に月に1度は高尾山に登っていたことがあり、大人になっても時々思い立ったようにふらっと低山を歩きに行きます。登山は好きだけど、3000m級の山や難所の多い山に興味があるわけではなく、ただリフレッシュして気持ち良くなりたい。
そんな考え方に共感するところがありそうで読んでみた本です。
フラット登山

佐々木俊尚
かんき出版
2025年4月23日
登山の楽しさの本質は、『歩く』という行為そのものの中にある
概要
「登山」と聞くときつい、装備や道具が多い、頂上にだどりつく一瞬の達成感のための道程が割に合わない。そんなイメージももたれるかもしれません。
本書ではそれらのイメージに対抗して、そもそも頂上を目指さない登山の本質に迫った楽しみ方を提唱する新しいスタイルを目指しています。
- 急登な山だけでなくフラット(平坦)な道も歩いて楽しむ
- 登山歴によるマウンティングを脱してみんなフラット(平等)な目線で楽しむ
- 登山を難しく考えずに気軽に日帰りでふらっと楽しむ
登山はきついものだけど頂上にさえ辿り着けば達成感を得られるというのはステレオタイプな価値観です。日本百名山の登頂数(ピークハント)や、連峰の縦走経験を語り悦に浸るマウンティング精神にも疲れます。
フラット登山は「歩く楽しみ」を重視して、心から満たされる山歩きを探っていきます。
著者が長年の登山経験からフラット登山に行き着いた経緯、必要な装備や心得など、実践的な話も交えながら独自の登山哲学を展開します。
感想
従来の登山イメージを覆して、登山とは本来これでいいんだ、いや「これがいいんだ」と思わせる本でした。頂上を目指さない、スリルを味わわない、達成感ばかりを求めない。歩く気持ち良さと、頂上以外からも得られる山の感動を教えてくれます。
山頂を目指す登山は、目的が達成されたその帰り道が消化試合になってしまいます。これは非常にもったいないことだと思いませんか。
フラット登山を楽しむために、著者の佐々木さんは独自の評価軸を持っています。標高、コースタイム、百名山などの即物的な基準ではなく、その道を歩いて得られる快感や幸福感といった極めて主観的な基準。これを官能的な山道と呼びます。
- 異世界に迷い込んでいる
- 広大で解放感がある
- 変化に富み、足に快感がある
- 冒険心が満たされる
- 霊性に畏怖を感じる
数値や客観的な評価では言い表せないけど、なんか歩いていて良い感覚。私自身もなんとなく分かる感覚でした。そしてこれは実際に歩いてみないと分からないものが多い。
著者はジャーナリストとして培った言語化力を駆使して官能的な山道の魅力を伝えますが、やはりどうしても感動は主観の域を出ない。フラット登山の魅力は長年の登山歴が裏付ける著者にしか書けない独自の記述として立ち上がっています。
フラット登山に必要な装備の紹介、最低限の山の心得、登山ルートの組み方など役立つ知識も満載です。今どきの実用書ではあまり見ないくらいの分厚い本で、その情報量も確かなものでした。
プランの立て方で紹介された環境省の長距離自然歩道公式サイトの活用は目から鱗でした。この話は本を著者の佐々木さんがトークイベントで岐阜に訪れた際にも話されていました。

最後にフラット登山モデルコースを官能的な山道の要素を意識して30コースも紹介。歩行タイム、難易度、高低差、足まわり、おすすめの季節が分かりやすいです。しかし関東方面がメインなので、フラット登山で登山の間口を広げながらも後半は多くの読者を取りこぼします。ただそれは著者も分かっていてあとがきでも書いていますし、出版後もVoicyやX等で関西方面のフラット登山を発信して情報を後付けされています。

YAMAPのウェブメディアにて本書のコースガイドが紹介されており、そのままYAMAPアプリに遷移できるので、気になるコースがあれば非常に便利です。
フラット登山の靴選び
山歩きにおいて最も重要な装備が靴ではないでしょうか。しかし靴選びは簡単ではなく、機能性、価格、履き心地など、自分に合ったものを探そうと思うとより難しくなります。
これからフラット登山を始めようと思って、まず最初に買うべきものがあるとしたら靴なのでとても重要な章です。
フラット登山の概念では登山道だけでなく、未舗装の林道や舗装された車道など一般道も含んで歩きます。そのためあらゆる路面に応じたオールマイティな靴が好ましい。
お金に余裕があるならイタリアの登山靴メーカー スポルティバ社のエクイリビウムを勧められてます。がっちりしたアルパインブーツで重いのになぜか歩きやすが、価格は6万円と非常に高価。
著者は有象無象の記事や書籍のあいまいで怪しげな靴選びに疑義を呈しています。それは登山靴の分類や用語の概念にあいまいな点が多く、業界やメーカー内でも統一されていないところにも起因します。これらを踏まえて著者が定義するフラット登山にすすめる靴が以下の条件。
片脚重量300~400g台で、ゴアテックスなどを採用して防水性能のあるミドルカットの登山靴
分類を気にせずスペックと機能で明確に定義しており、舗装路から登山まで広範な条件にマッチした靴です。しかし靴と足の形には相性があり、試し履きくらいでは判断できず、長く履いてみて初めて分かります。色々試してみて、相性が良いのがみつかったらそのブランドやシリーズを愛好していくようです。













