肉体改造のピラミッドトレーニング編|Eric Helms
運動科学と栄養学の研究に精通する筆頭著者Eric Helms博士による、科学的知見に基づく実践的な参考書。実際に役立つ形で優先順位を並べ直し、何から取り組むべきかを具体的に示してくれます。
この本が読者に求めているのは「完璧な知識」よりも、何が重要か見分けること、自分の状況に当てはめること、枝葉の情報に振り回されないことです。
肉体改造のピラミッド トレーニング編

Eric Helms
Andrea Valdez
Andy Morgan
八百 健吾(訳)
AthleteBody株式会社
2022年10月9日
- Eric Helms
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本書の中核となる理論・ピラミッドの考案者。研究・教育・指導・競技のすべてに関わってきた人物。
- Andrea Valdez
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情報整理や伝達を支える共著者。Ericの知見を、読者が使える形に落とし込む役割が強い。
- Andy Morgan
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日本語圏との橋渡し役として非常に重要な存在。日本向け発信やAthleteBody.jp運営にも関わり、英語圏の有益情報を日本へ届ける役割を担っている。
概要
トレーニングプログラムを考えるうえで大事なのは、細かいテクニックより先に長く続けられることです。そのために、トレーニングの要素には優先順位があり、まず土台となる部分を整えるべきだ、という考え方が中心です。
本書の基本構造「ピラミッド」重要事項を6段階のピラミッドで整理しています。下から順に、継続すること、トレーニング量・強度・頻度、挙上成績の伸ばし方、トレーニング種目の選び方、セット間休憩、挙上速度という構成です。
つまり、まず続けられることが最優先で、その次に全体の負荷設計が重要であり、休憩や挙上速度のような細部はその後に考えます。また、この全体を長期的に調整していく考え方としてピリオダイゼーションという概念も重要です。
感想

プログラム作りでは「これが絶対に正しい」という偏った考えはありません。目的、状況、本人の生活に応じて調整するという姿勢が大事です。
たとえば、スクワットは常に最強の種目なのか、レップ数やセット数は多いほど良いのか、毎日やれば良いのかといった問いは、単純な「Yes/No」では答えられず「誰にとって・どんな目的で・どんな状況で」を踏まえて考えるべきだとしています。
トレーニング内容の組み立ては非常に個別具体的で、これといった一つの正解がないことは忘れないようにするべきだと学びました。
継続すること
身体を変えるには時間がかかるので、理論的に優れたプログラムでも、続けられなければ意味がありません。以下の3つを満たすほど、長期的に継続しやすくなります。
- 現実的であること
- 楽しいこと
- 柔軟であること
理想論ではなく、自分の生活の中で本当に実行できる内容かを優先するべきだとされています。たとえば、仕事・家庭・使える時間・大会日程などを無視して、上級者向けの頻度や分割を真似しても続きません。
週に何回通えるのか、1回に何分使えるのか、目標までどれくらい期間があるのかを踏まえて組む必要があります。
現実には、仕事、家庭、疲労、ストレス、体調不良などで計画どおりに進まない日が必ずあるので、それを前提に組むべきだと述べています。「計画どおりにできなかった=失敗」ではなく、状況に応じて組み替えられる柔軟性が大切です。
トレーニング量・強度・頻度
たくさんやれば良いわけでも、重ければ良いわけでも、追い込めば良いわけでもない。目的に合わせて、量・強度・頻度を組み合わせ、回復できる範囲で継続することが重要です。
トレーニング量の考え方にセット数、総レップ数、総挙上重量などいくつかの見方がありますが、本書では実践上、セット数を最も扱いやすい指標として重視しています。
量を増やすと、基本的には筋力・筋肥大の効果は高まりやすいです。ただしそれは無限に右肩上がりではありません。一定までは伸びやすくても、増やしすぎると効率が落ち、疲労が蓄積する、回復が追いつかない、パフォーマンスが落ちる、という問題が起きます。つまり、少なすぎてもダメ、多すぎてもダメで、適量があるということです。
筋力向上:動作パターンごとに週10〜20セット
筋肥大:部位ごとに週10〜20セット
漸進性過負荷の原則と特異性
身体を変えるには、慣れた負荷よりも、少し上の刺激を継続的に与える必要があります。筋力や筋肥大は、同じことを漫然と続けるだけでは頭打ちになります。
特異性とは身体が与えた刺激に応じて適応すること。筋力を伸ばしたいなら重い重量を扱う練習、筋肥大したいなら対象部位への十分な刺激量が必要です。
このため、筋力向上と筋肥大では、重視すべき配分が少し違うというのが前提です。
トレーニング頻度については、勉強でいう「一夜漬け」より「分散学習」の方が定着しやすい、というたとえで説明されていました。
筋力向上:動作パターンごとに週2回以上
筋肥大:部位ごとに週2回以上
まず必要なトレーニング量を決め、その量を無理なくこなせる頻度に分け、実際にやって調整するという順序を勧めています。つまり頻度は、理論だけでなく生活スケジュールとも合わせる必要があります。
挙上成績の伸ばし方
挙上成績は経験レベルに応じて伸ばし方が変わり、そのためにディロード・移行期・ピリオダイゼーションを使いながら、長期的にプログラムを組み立てる必要があります。
挙上成績は「目標」であり、トレーニングがうまく機能しているかを見る「指標」でもあります。特に筋肥大目的でも、体重、見た目、体組成は短期ではぶれやすく、上級者ほど変化も見えにくいので、同じ種目で以前より重い重量や多い回数を扱えるかを見ることに意味があります。
心身ともに負荷が高く怪我のリスクがある1RMではなく、2RM〜5RM程度で同じ重量でのレップ数の伸び、重量とRPEの変化、そこからの1RM推定、などを使えば、長期的な筋力の伸びはかなり把握できます。
また上級者になるほど成績を伸ばすのが難しくプログラムも複雑になります。
初心者は「シンプルに毎回少しずつ増やす」が基本。コンパウンド種目中心、種目数は絞る、フォームを崩さずこなせる範囲で行う、セット数・回数は大きくいじらず、まずは重量を少しずつ増やす、いわゆるリニアプログレッションです。うまくいかなくなったら、まずは同じ重量で再挑戦、それでもダメなら10%程度落とし、軽くしたところからまた積み直す。初心者では、複雑な周期化よりもシンプルに積んで、失敗したら少し下げてまた積むのが有効だとされています。
ディロードは「疲労を抜く期間」
疲労を抜く、パフォーマンスを戻す、痛みや怪我リスクを下げる、次のサイクルでまた前進しやすくする役割です。
次のようなサインが複数あると、ディロードを検討しやすいです。
- ジムに行くのが負担
- 睡眠不足
- 重量やレップ数が落ちる
- ストレスが強い
- 関節痛が強い
ディロード後にまたすぐ疲れるなら、その場合は、一時的な疲労ではなく普段のトレーニング量が多すぎる可能性があります。そのときは、全体量を2割程度下げることが一つの目安として示されています。
ピリオダイゼーション
ピリオダイゼーションとは、長期のトレーニングをいくつかの期間に分け、各時期に目的を持たせて内容を変えていく考え方です。
トレーニング量、強度、頻度、種目、セット数・回数、回復戦略、などです。本質は、長期で見て、必要な適応を順番に積み上げることにあります。
リニアピリオダイゼーション
高ボリューム・低強度から始める。徐々に量を減らし、強度を上げる。最終的に高重量へ近づく。もっとも基本的な「直線的」モデルです。
ブロックピリオダイゼーション
トレーニング全体を蓄積(量を積み土台を作る)、強化(強度を高める)、現実化(疲労を抜き能力を発揮する)の3ブロックに分ける方法で役割分担が明確です。
アンデュレイティングピリオダイゼーション
日ごと、週ごとに目的や設定を変える方法です。
たとえば1週間の中で筋肥大、パワー、筋力を分ける、という形です。複数の能力を並行して保ちやすいのが特徴です。
そしてこられのピリオダイゼーションのモデルは対立させずに組み合わせて使う。どれがもっとも最適といった答えはありません。モデルは宗派ではなく、目的に応じて使う設計道具です。
トレーニング種目の選び方
コンパウンド種目とアイソレーション種目をどう使い分けるか、弱点にどう対応するか、種目を並べる順番や可動域をどう考えるか、良い種目は万人共通で決まるのではなく、目的・身体特性・フォーム・疲労管理に応じて選ぶべきです。
筋肥大を目的とする場合、特定種目へのこだわりはやや弱くなります。重要なのは対象筋にしっかり刺激が入ること。そのため、身体に合う種目を自由度高く選びやすくなります。
目安としては、主な筋群ごとにコンパウンド1〜2種、各筋群にアイソレーション1〜3種という考え方が示されています。
コンパウンド種目の利点として、多くの筋肉を同時に使える、高重量を扱いやすい、時間効率がよい、全身の筋量や筋力を伸ばしやすい。そのため、プログラムの中心として非常に有効です。ただし限界もあり、刺激が偏り、鍛え漏れ、身体特性によって狙った筋に入りにくいことがあるため、弱点があるとメイン種目だけでは伸び悩むことがあります。
つまり、コンパウンドは土台として優秀だが、必要に応じて補助種目で補うべきです。
アイソレーション種目は、コンパウンドに比べて効率は落ちますが、特定部位を狙いやすい、弱点補強に向いている、怪我リスクや全身疲労を抑えやすい、種目追加や入れ替えがしやすいという利点があります。「弱点補強」と「鍛え漏れ防止」に有効です。
セット間休憩の取り方
筋肥大のために休憩を無理に短くする必要は基本的にありません。休憩は次のセットでしっかり力を出せるだけ取るのが基本で、短縮系テクニックは時間効率のために限定的に使うものという内容です。
セット間休憩は、昔よく言われた「短ければ短いほど良い」わけではありません。休憩を短くしても、筋肥大が明確に大きくなるとは言えず、むしろ休憩が短すぎると、次セットの重量や回数が落ちやすいです。長めに休んだ方が、全体のトレーニング量を確保しやすい場合があります。
つまり、筋肥大を高める目的でわざわざ休憩を短く制限する根拠は弱いという立場です。実践上の基本は「次のセットでしっかり力を出せるだけ休む」、次のセットで集中・呼吸・出力が戻るだけ休むのが基本です。
目安としては、アイソレーション種目1.5分前後、コンパウンド種目:2.5分前後あたりから考えると良いです。
スーパーセット
短い休憩のメリットは「時間効率」とスーパーセットが使い方次第で有効です。
特に拮抗筋の組み合わせが有効で、片方をやっている間、反対側は休めるのでパフォーマンスを大きく落とさず時間短縮しやすい。ただしスクワットなど全身疲労が大きい種目に不向きで、ジム器具を複数占有するため環境面への配慮も必要です。
ドロップセット
ドロップセットは短時間で追い込めるが、進捗管理がしにくいというデメリットがあります。軽い重量でも筋繊維を使いやすい一方で、疲労が大きく記録の比較もしにくいのが難点。
レストポーズセット
限界近くまで行ったあと、20〜30秒ほど短く休み、同じ重量でまた続ける方法です。
時間を節約でき、同じ重量を使うので、ドロップセットよりは進歩を追いやすく、短時間で所定レップをまとめやすいです。しかし疲労はかなり大きく、フォーム維持が難しいため、高重量コンパウンド種目では危険性が上がりやすい。
挙上速度
Time Under Tension(筋に負荷がかかっている時間)は本当に重要か、エキセントリック局面をゆっくり行うべきか、エキセントリックで高負荷を使う価値はあるかです。
挙上速度をわざと遅くすること自体に大きな意味はなく、基本は適切なフォームで、下ろす局面は自分の筋でコントロールし、挙げる局面ではできるだけ力を出して挙げるのがよい。
挙上速度は「重いほど遅くなる」ので、速度そのものを目的にしなくていいそうです。速く挙げようと意識することはあっても、実際には重い重量ほどゆっくりに見えるので、速度そのものを細かく管理しすぎる必要はありません。
実践的には、下ろす局面はコントロールする。挙げる局面ではしっかり力を出すで十分だとまとめています。






