KAGEROU|齋藤智裕
メルカリで持て余したポイントを消化するために、なんとなく本の表紙デザインが良かったので購入しました。
読み終わってからこの本の背景を調べて初めて知ったのですが、どうやら作者は俳優の水嶋ヒロだったようです。しかも莫大な賞金の文学賞受賞の裏では、その選考をめぐる疑念が世間に広まっていました。
KAGEROU

齋藤智裕
ポプラ社
2010年12月15日
自らの手で自分の人格を捨て、未来を断ち切ろうとしました。そのまま自殺が遂行されていたら残るのはバラバラに砕け散った肉体だけです。つまり私たちが取り扱っているのは、その地面に激突する寸前の命の抜け殻なのです。
あらすじ
デパートの屋上から飛び降りようとしたヤスオは、決断をする瞬間にある男に呼び止められます。男は全日本ドナー・レシピエント協会の京谷と名乗りました。
自ら命を断つのなら、その命(肉体)に見合った金額を受け取ってから死んだほうがいいと提案しに来たのです。
ヤスオはその提案を承諾し、精密な身体検査や既往歴などのもと、頭のてっぺんからつま先までの査定を完了させます。自らの肉体に金額をつけられると、嫌でも命の価値と平等さについて考えざるをえません。
そしてヤスオはあるレシピエントの少女と出会い、生きることを再び考えさせられるのでした。
感想
ヤスオは自殺志願者のわりに性格は明るくふざけるタイプです。命の価値や自殺をテーマに扱う本にしては、主人公が剽軽なキャラですね。物語の重い雰囲気を和らげるバランス役ともとれますが、作風とキャラクターに生じるギャップに違和感があります。
命の価値の議論にて、そもそも命の価値を測ることの合理性のなさに言及されます。個性や人格、その人の未来まで含めて命です。だから協会はあくまでも肉体に対して価値をつけており、自らの意志で未来を切り捨てたヤスオの命に対して論理的に測れない人格や未来は含まれないものとしました。命が数百万~数千万というと安く感じるかもしれませんが、命の抜け殻としての肉体にその機能に見合った金額しかつかないのは納得できそうな理屈です。
後半のレシピエントである少女に出会ってからの展開が本作の面白さを失速させました。自身の胸のぜんまいをグルグル回しながら生き永らえていた様子はシュールな極みで、感動的な話に帰結させるために強引に筆を起こしたように思えます。
疑惑の文学賞
第5回ポプラ社小説大賞受賞作とされていますが、賞金額が文学賞では異例すぎる2000万円でした。
そして本作の作者が実は芸能人の水嶋ヒロで、賞金金額が高い文学賞に受賞したのも忖度がなされていたのではと八百長疑惑が上がった作品です。ちなみに第2回~4回までの大賞受賞者は該当作なし。
受賞作が社内選考で不透明であったこと、水嶋ヒロの芸能界復帰への布石と思われたタイミング、そもそも本書のクオリティが低いといった見方が報じられました。結局作者は賞金を辞退して、文学賞は「ポプラ社小説新人賞」に名称変更して賞金額が200万に引き下げています。選考制度も一般の選考委員が加わる形に変更されたようです。
個人的にも正直に述べると、この本はつまらなくはなかったですが、賞金2000万の文学賞を受賞するレベルとは到底思えませんでした。








