【ソロー森の生活を漫画で読む】後世アメリカ文学に影響を残した超絶主義をサクッと読む、【孤独の愉しみ方】自然と孤独から多くの人生の原則を見出したソローの叡智

著者出版ヘンリー・デヴィッド・ソローイーストプレス:2010年

「知恵の贈り物」シリーズ 森の生活者ソローの叡智、インドの独立運動やアメリカの公民権運動などに影響を与えた作家のアンソロジー。

孤独には、力がある。ソロー

概要

本書は5章立て、

孤独が一番の贅沢

簡素に生きる大切さ

心を豊かにする働き方

持たない喜び

自然の教え

孤独を愉しむ方法、人間らしく生きる方法、シンプルに暮らす大切さについて、150年前、アメリカの森の中の湖の畔で、小屋を建てて自給自足の生活をしながら遺した思索家の言葉を、わかりやすくいまに生きる人に向けて編集しました。

ガンジー、キング牧師を動かし、環境保護運動のバイブルともなり、世界を変革した言葉は「森の生活者」の孤独な時間から生まれました。心豊かに生きる秘訣がこの本には書かれています。 イースト・プレス 内容紹介

個人的に特に気に入ってる内容を抜粋して紹介します。

「みんな」という言葉にまどわされてはならない。「みんな」はどこにも存在しないし、「みんな」は決して何もしてくれない。

多数による同調圧力をもってして相手を丸め込んだり、「みんな」という主語の大きい曖昧な対象に責任をおしつけたり、そうやって本来の自分を喪っていってはだめだ。

退屈するのはその中に野生がないからだ。

文学の中で人の心を惹きつけるのは野性的なものだけである。つまらなさとは飼いならされていることの別名だ。『ハムレット』には洗練されていない自由奔放な思考があって、言葉にできない美しさを含んでいる。 動物に例えるとわかりやすく、同じ動物でも飼いならされた動物園で眺めるのと、自然豊かな山の中で発見するのでは感動が大きく異なるだろう。

生活費を稼ぐために、起きている時間のほとんどを労働に費やすのは、明らかに失敗だ。

ほとんどの人のように午前も午後も自分の時間を社会に売り渡してしまったら、人生は生きる価値のないものになってしまう。目先の利益のために生得権を売り渡さないことがソローの信条。

人間は自分がつくった道具の道具になってしまった。

道具や手段が進歩しても達成したい目的は今も昔もずっと変わらないものが多々あるだろう。近代的な発展を肯定するばかりでは別の何かを失ってしまうかもしれない。

僕たちが住むこの地球も、宇宙の中ではほんの小さな点にすぎない。

ソローはよく他人から森で暮らすのは寂しいだろうといわれていた。しかし視点をあげれば、この地球だって広大な宇宙から見ればほんの小さな点にすぎない寂しいものだ。

感想・書評

コロナが流行り始めたころ「孤独」「ソロ活」といったキーワードが目立っていました。日本では昔から「和」や「協調」など集団的な取り組みや形成に美徳を感じるところがあり、孤独という言葉が少々ネガティブに捉えられがちだと思います。それが皮肉にもコロナによって、孤独や1人での活動を肯定的に捉えていく機運が一気に高まったようです。

図書館で素敵なおひとり様ライフ特集のようなものが組まれていて、偶然見かけたのがこの「孤独の愉しみ方」でした。

名言集なのでパラパラと気軽に読んでいけるし、気に入った部分には付箋をつけて何度も繰り返し読んでいます。

心の賛沢は、一人の時間から 孤独には、力がある。 イースト・プレス コピーライト

孤独が決して悪いものではないことや、むしろ人間が本質的に豊かな精神性を育むためには孤独が必要であることが分かります。

自分が一人であることに寂しさを感じているのであれば、それは孤独を味方にして自分を成長させるチャンスでもあるのです。

著者出版ヘンリー・デイヴィッド・ソローいそっぷ社:2018/10/17

ジョン・ポーサリーノ(編/絵) 金原瑞人(訳)

この世界で生きることは苦行ではなく、遊びなのだ。シンプルに賢く生きてさえいれば。ソロー

シンプルな生き方を提唱した名著の誉れ高い『森の生活』

実際に読むと長大で難解なこの作品を、選び抜いたソローの文章とジョン・ポーサリーノによるシンプルな描線で漫画にしたのが本書。

後半には引用されたソローの文章を訳出し、その言葉がどんな文脈で書かれたのかを解説している。

ソローの遍歴

大学卒業からパブリックスクール辞職の理由、執筆業で生計を立てる動機、森での生活、政府への意思表明、森での生活実験終了後の講演活動までの遍歴が記されている。

ソローの1845年3月~1847年9月までの日記は、アメリカ文学を代表する「森の生活」として出版され、これに触発されて多くの国立公園が生まれていることや、生態系保存活動を促していることを前提にしておく。

また、エッセイ「市民としての反抗」こちらも20世紀のイギリス統治に対するインドの独立運動や、アメリカの公民権運動などに影響を与えた。

ウォルデン湖での生活

四季を感じ、動物の足跡を追い、ハンノキやブドウなど自生する植物、ウォルデン湖の情景を眺める。2エーカー半の土地にインゲン豆、ジャガイモ、トウモロコシ、エンドウ豆、カブを植えた。

農作業して、1~2時間休息して、昼食をとり、泉のそばで本を読む。

そうやって自然と一体になっていく中で気がついたのは、すべては神秘的で果てしなく、自然を味わい尽くすことはできないこと。

人は容易いルートばかり歩くから、何度も行き来するうちに踏みならされ、伝統や文化という轍が刻まれる。だから森へ行くのはそんな流れへの逆行ともいえる。

感想・書評

漫画とありますが、実際にはイラストをぽつぽつと単純なコマでつなぎ合わたような、シンプルな線の絵本調の本です。思考をセリフ化して、コマとアンニュイな無言の表情だけで文脈を補完させる特徴的な漫画です。それがソローらしさを引き出してるようで、シンプルな構図だけどじっくりと時間をかけて読んでしまいました。

内容としてはソローを何も知らない人からすると、なんとも虚無的な無感動なストーリーに思えるかもしれません。しかしそれが現実ですし、そこに本来の生きる本質を見出す価値があります。

ソローは隠者ではなく、森の生活でも多くの客人を招き入れていましたし、自分が村に足を運ぶことも度々ありました。彼の見立てでは、子供や女性は森の中が好きでしたが、商売人や農夫に限って仕事と孤独の話ばかり気にしてくるそうです。社会生活の中で人々の大事な感性が失われていくことを嘆いているようですね。

後半には抜粋解説文もあるので、漫画で抽象的に表現してる部分はそちらで追って理解するといいでしょう。ジョン・ポーサリーノが、いかに言葉少なに「森の生活」を捉え、ウォルデン湖の静寂やソローの静謐な思考を再現しているかが分かってくると思います。