【人生・仕事の結果が変わる 考え方】数多くの功績を残した稲盛和夫の人生観とは
著者 | 出版 |
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稲盛和夫 | 大和書房:2017/04/01 |
稲盛和夫の名言を抜粋して、それに細かい説明を肉付けしていくような構成の本。見開きに稲盛和夫の肖像写真と名言が挿入されている。
稲盛和夫
1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業、59年京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て97年名誉会長。84年に第二電電(現・KDDI)を設立し会長に、2001年最高顧問。2010年日本航空会長に就任し日本航空再建。
同年に稲盛財団を設立し京都賞を創設。人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。若手経営者が集まる盛和塾の塾長として後進の育成にも心血を注ぐ。
主な著書に「生き方」「働き方」「成功への情熱」「人生と経営」など。
概要
稲盛和夫の功績を振り返って、どんな境遇にあろうと「人間として正しいことを正しいままに貫く」を実践してきた『考え方』にせまる。
大きな志しを持つこと
自分の可能性をひたすら信じ、実現することのみを強く思いながら努力を続ければ、いかなる困難があっても必ず実現する。こうしたいと思っても実現するのは難しいと多くの人が後ろ向きに考えがちだが、一切の疑念を捨てて実現を信じること。これが自然と努力を引き出してくれる。
ビジネスの世界では挑戦的で独創的なことをしようとするときに必ず多くの障害が出てくる。これを克服するには一途な信念で乗り越えるしかない。
1984年電気通信事業の自由化により国策会社の電電公社が民営化されNTTになり、通信事業への新規参入が認められた。しかし明治以来のNTTによる膨大な通信インフラに誰も太刀打ちできない。国内の長距離電話料金が世界的に見て高すぎるため、通話料金を安くする大義を掲げて不利な局面を駆け抜け、現在では市場をリードするKDDIとなった。
誠実であること
常に正しい道を踏み誠を尽くして仕事をする。相手に迎合したり、うまく世渡りできるからといって妥協するような生き方をしてはならない。
行き詰ると良心ではよくないとわかっていてもつい悪いことをする。極端にいえば結果良ければすべてよしな思考に陥る。そうして自分を納得させ悪に手を染める。どんなに難しい局面でも正道を貫く人間としての正しい姿勢は維持しないといけない。
不正や不真面目を嫌い、強い正義感を持っていた稲盛。最初の職場で開発に成功してから実質的に現場を仕切る立場にあった。戦後は業績が低迷して赤字が続き、労働争議が頻発して、待遇も悪いのでみんな一生懸命に働かず不要な残業代を稼ぐのが常態化していた。人件費が製品コストに跳ね返るので残業禁止にしたが、多くの不満を買うのは必至。「ここで苦労して低コストで製品を作れば、近い将来競争力がついて必ずいやというほど注文が来て残業することになる」と説得。
管理職でもないのに経営者より厳しい要求だと労働組合で査問委員会にかけられつるし上げられた経験もある。それでも敢然と会社の先行きを訴え正道を貫く反論で自分の正義を貫いた。自分が正しいことをしていると信じていたし、同時になぜ正しいことをしてるのに理解してくれないのか、嫌われるのだろうかと悩んで孤独を感じていた。稲盛が小川のほとりで泣いていると有名になった話だ。
職場の人間関係に角が立たないように、世の中をうまく立ち回るために、自分の信念を曲げて周囲に迎合しない。嫌われても正しい主張は通さないといけない場面がある。
心が純粋であること
27歳で京セラを作って感謝を意識するようになった稲盛。経営経験もないのに、会社を設立してくれた人々にこたえるべく昼夜兼行で仕事に励み、困難な要求を自分をのばしてくれる機会としてポジティブに受け取る。無理にでもありがたいと感謝の心を持つくらいがちょうどよい。
できるだけ欲を離れて三毒(欲望・愚痴・怒り)を完全に消せなくとも抑制するように努めた。いかに恵まれていようとも際限なく欲をかけば不足を感じ、不満でいっぱいで幸せを感じられない。幸せかどうかは人の心の状態によって決まるもので、条件を満たして得るものではない。足るを知り、自らの心を作っていくことこそが、幸せを感じるために大切なこと。
謙虚であること
少しも威張ったところがなく、常に謙虚で、欲望や虚栄を抑えることができる克己心の持ち主こそが人格者だと考える。人は自分に誇るものがないからこそ威張って自己顕示欲を満たそうとするもので、謙虚な人は傲慢にとりつかれず慢心しないので成功に導かれる。
人生は変転極まりないもので、成功に恵まれても苦難に遭遇しようとも、謙虚であれば自分を見失わずに誠実に生き続けることができる。
世のため、人のために行動する
利他は社会をよりよい方向に導く心である。犠牲を払ってでも世のため人のために尽くすことは、実は自分自身の人生もよくしてくれる。一見回り道のように思えるが、情けは人のためならずといわれるように、巡り巡って自分に返ってくるもの。
見返りを求めるという話ではなく、相手の役に立った喜びそのものが、自身の誇りになるという話である。
感想・書評
本書の中からとくに気に入った部分を抜粋して紹介しました。
稲盛和夫という松下幸之助に並ぶ経営の神様による言葉の数々。その功績と人格からこれ以上ない説得力を含んだ一冊です。
特筆すべき点は、人間の「心」や「正しさ」に訴えかける内容が多く、経営者のみならずすべての人に通ずる誠の言葉にあふれています。難しいことは一つもないのだけど、いざ改めて語り掛けられると自信を見直さなければいけないことに多く気づかされます。
善い考え方が人を育み、周囲を奮い立たせ、社会に影響を及ぼす。そんな原点に立ち返るための「考え方」を問われているようです。