彼女は頭が悪いから

『彼女は頭が悪いから』は、姫野カオルコによる2018年発表の小説です。この作品は、2016年に実際に起きた東京大学の学生らによる集団強制わいせつ事件に着想を得て執筆されました。ただし、登場人物や物語の詳細はすべてフィクションであり、事件のノベライズではありません。

本作は、事件を通じて浮き彫りになる社会の格差、ジェンダーの不平等、そして人々の偏見や差別意識を描き出しています。特に、加害者と被害者の生い立ちや心理的背景、事件後の被害者へのバッシングなどが克明に描かれています。

タイトルの「彼女は頭が悪いから」という言葉は、実際の事件の公判で加害者の一人が発した言葉に由来しており、被害者を見下す態度を象徴しています

あらすじ

物語の中心となるのは、以下の2人の登場人物です:

神立美咲:横浜市郊外の普通の家庭で育ち、偏差値48程度の女子大学に通う女子大生。

竹内つばさ:渋谷区広尾の官僚家庭に生まれ、東京大学理科I類に進学した男子学生。

美咲は、地元の進学校を卒業後、家族に祝福されながら女子大学に進学します。一方、つばさはエリート家庭で育ち、東大に進学するも、周囲の富裕層や優秀な同級生に劣等感を抱くことがあります。

2人は大学生になってから偶然出会い、最初は恋愛のような関係が始まるかに見えます。しかし、つばさを含む東大生5人が引き起こした強制わいせつ事件により、2人の関係は加害者と被害者という最悪の形で交わることになります。

事件後、被害者である美咲は「勘違い女」として世間から非難され、加害者たちの未来を潰したとまで言われます。このような状況を通じて、学歴や社会的地位がもたらす偏見や、被害者バッシングの問題が浮き彫りにされます。

プロローグ

作者によって語られる、実際の事件とその背景にある事件当日から当事者を数年前から遡る試みについて。

1章~4章

エピローグ

美咲の「どうせ」というのは自分が関わっていくものを眺める感情に近い。有名人や天皇などのような遠い世界の話。それが長女として、恵まれた周囲の人間に対して、あらゆることへの諦観だった。

つばさは大学3年で21歳の成人だが、えのきの家賃を支払う行為が理解できなかった。想像もできない。それは「いつか」であり、自分に子供ができるような実感のない向こうのほうにある行為。

譲治の副収入となるビジネスをちらつかせられて、気になるけど詳しく教えてくれと聞くのが癪だった。気づかないほど軽い苛立ちに自分でも気づいていない。

譲治とつばさの会話の端々に誇りがはみでて、それを驕りというのだけど、そして学歴や教養でマウントを取り合って小さな棘をチクチクさしあう。

1章 134p

人やものごとのありようというのは、プラスとマイナスの両方に形容できる。

美咲についてならこうだ。

「令嬢というのではないが、仲のよい親族に囲まれて育ったよい子」≒「自主性に欠ける。いつも受け身に過ぎる」。

「よくない遊びもおぼえず、おっとり過ごしている」≒「異性から積極的にアプローチされない」。

美咲は「ごくふつうの女の子」だった。

つばさは東大に入ったころ、いや、教育大附属のパドルテニス部に他高校から女子マネ志願者が絶えないのを知ってからこう思う。

女は下心がある。このワタシに釣り合うってのが偏差値の高い大学の女子。これをゲットしなくちゃってのが偏差値の低い大学の女子。差はこれだけ。

本のいちばん中盤でようやく2人の主人公が交差する。偶然の出会いがきっかけでクリスマスマーケットで出会う。

つばさは次第に「下心」という語を自身の中で拡大させていく。それはつばさたち東大生の肥大化する自尊心の中で着実に歪に存在感を増していく。

第3章 243p

昭和のころ、英語の上達しない日本人が、東南アジアの原語なら(挨拶くらいなら)すぐに上達したしくみと、基本的に同じだ。西欧人が日本に来るとすぐに日本語が上達するのとも。

相手にどれだけ臆しているか。その度合いが小さいほど上達が速いのと基本的に同じで、情緒の成熟した男ならかえって臆してしまう、美咲の触れなば陥ちん無防備さに、つばさは臆さなかった。

→そうしてクリスマスマーケットから2人だけグループから抜けてそのまま付き合うに至る。

逆に美咲はつばさとの関係の中で、教養の深浅に戸惑いびくつく。この時に感じるびくつきや自分の教養に対しての気後れを、つばさは後に下心と呼ぶ。

第3章の297pで、つばさが美咲と待ち合わせたとき。美咲は予期せぬ呼び出しで急いできたものだから化粧ができず、電車内でも品がないので化粧をせず、せめてものホームで待ち合わせる直前につばさがほめてくれた目元だけでも飾ろうと鏡の前でマスカラを塗る。このいたいけな気持ちとは裏腹に、遠くからやってきたつばさは「ああいうとこ、ちがう」と、新たに出会った教養のある美しい女性の摩耶と比較して勝手に冷めている。カエル化現象というやつだ。

事件後に妹が姉を心配してコンビニ弁当を買ってくる。それを冷たいまま手づかみで食べて取り乱している姿に妹もどうすることができない。壊れていく姉、姉の世話になるだけ毛だった下の子たちですら心配する様子に心が痛くなる。

つばさの兄は美咲の示談を「ずいぶんお人好しな条件」だという。つばさの兄だけが唯一、まともな大人になっていった。コンプレックスに向き合い、学歴などの見える形にこだわらず、自分の性格にあった新しい道を見つけた。そして弟の起こした事件に対してまっとうな意見を述べる。

第四章 463p

彼らはぴかぴかのハートの持ち主なので、裸の女がまるまって、ううううと涙を垂らしている状態は、想定外であり、優秀な頭脳がおかしてはいけないミス解答だった。

結論 彼らがしたかったことは、偏差値の低い大学に通う生き物を、大嗤いすることだった。彼らにあったのは、ただ「東大ではない人間を馬鹿にしたい欲」だけだった。

感想・書評

姫野カオルコは、この小説を通じて、事件の背景にある社会的な構造や人々の無意識の差別意識を掘り下げようとしました。特に、加害者たちが持つ「自分たちは優れている」というエリート意識や、被害者が受けた不当な扱いに焦点を当てています。また、事件の詳細を忠実に再現するのではなく、フィクションという形で普遍的な問題を描くことを意図しています。

この作品は、読者に「なぜこのような事件が起きたのか」「社会のどの部分が問題なのか」を考えさせる社会派小説として評価されていますが、一方で東大生や関係者からは「事実と異なる描写がある」との批判も受けました。

美咲は理由をつけて何かをあきらめていることが多いが、それに悲観しているわけでもない。黒板で問題を当てて丸をもらったこと、二人三脚で一等になったこと、些細な喜びを忘れずにいる。

大学で友達と遊ぶこと、その事実に喜んでる

つばさは兄に倣って勉学に集中するが、いわゆる学校特有の運動ができる人たちが人気者になるスクールカーストに劣等感を持っていた。要領よく東大に入学し、運動部でありつつ厳格でない同好会で運動部所属に近しい評価を得た。東大ブランドも感じつつ、少しずつ自尊心を膨らませていく。

だんだん女性を蔑ろにしていく過程がみてとれる。

実践的な人生経験が欠如

部活動の一環で出会うふたり。

パドルテニス

学歴の応酬

自分は学歴とは無縁だったわけで、、、というとそこに高学歴になれなかった僻みと、そうでなくとも今を生きてる驕りが見えるか?

だんだんと読むのが辛くなってくる、事件のことを知ったうえで読んでいるから