【ツチノコ撮影日誌】岐阜県東白川村のツチノコ本気捜索へ行く前に読んだ本

【ツチノコ撮影日誌】岐阜県東白川村のツチノコ本気捜索へ行く前に読んだ本

今井友樹
1979年岐阜県東白川村生まれ、ドキュメンタリー映画監督。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。2004年に民族文化映像研究所に入所し、所長・姫田忠義に師事。2014年に劇場公開初作品・長編記録映画『鳥の道を越えて』を発表。2015年に株式会社「工房ギャレット」を設立。

私は岐阜県在住なので、図書館の岐阜に関連した書籍の特設エリアはついチェックしていきます。

ツチノコ撮影日誌は岐阜県東白川村をメインフィールドに、ツチノコの歴史や文化を追ったドキュメンタリーです。

ツチノコが架空の生物だということは多くの人の共通認識だと思いますが、東白川村では30年以上にわたってツチノコ振興イベントが継続しており、ツチノコを信じている人も多いことをご存じでしょうか。

概要

ツチノコの特徴は、平たい頭部に首のくびれ、太い胴、黒やこげ茶の大きなウロコ、細くて短い尻尾、大きく鋭い目。毒はあるとかないとか諸説あり。

その歴史は古く縄文時代から生息したといわれています。岐阜県高山市の飛弾民族考古館には6000年前のツチノコ形の縄文石器が確認されています。江戸時代中期の図説「和漢三才図会」には野槌蛇として絵入りで紹介されているようです。

東白川村では「ツチヘンビ」と呼び、隣の中津川市付知町では「ヘンビの大将」白川町黒川では「ころがりヘンビ」などと全国的にもさまざまな呼び名があります。

ツチノコの文化的・民俗学的な話に触れつつ、ツチノコの目撃情報や生息地での民家のインタビューなども記載されていました。

ツチノコブーム

最初のツチノコブームは故山本素石の「逃げろツチノコ」から。

週刊少年マガジンにて「幻の怪蛇バチヘビ」の連載をした矢口高雄の功績もあって、子供を巻き込んでブームを席巻しました。そしてドラえもんや水木しげるの漫画にも登場してきました。

昔の人は想像力が豊饒で自然のひとつひとつから物語を織りなしていき、鼠を飲み込んだ蛇をツチノコと読んだりした可能性も否定できないでしょう。

本書ではツチノコに似ている生物にヤマナメクジとアオジタトカゲが紹介されています。個人的にはアオジタトカゲの手足が隠れていれば想像のツチノコにそっくりなので、ペットで逃げ出したツチノコを見間違えた説が濃厚だと思っています。

今井監督のツチノコ取材

実は本の骨子になっているのは著者である今井監督の自伝であり、どうしてツチノコを題材にした映画を撮るのか、それらの背景をベースに自分がどのようにしてドキュメンタリー映画監督への道を歩んできたか、そしてどんな作品を撮ってきたかの話が語られていました。

ツチノコ映画のための取材と今井監督の記憶をたどる自伝が交互に構成されていますね。

取材の進行が時系列に沿って、着実にツチノコと東白川村の歴史にせまっていくのが本書の見どころ。ツチノコを見た人や目撃談を聞いた人など、ツチノコを信じている人の中には、しっかりとツチノコの存在が根付いているということが大事です。

  • 2016年8月 ツチノコ取材開始

    東白川村と近郊地域の新聞の折り込みチラシにツチノコ目撃情報の提供を呼び掛ける。東白川村元村長 桂川眞郷インタビュー。立村100周年と竹下登政権時の1億円ふるさと創生事業などもあって、ツチノコ捜索イベントが村おこしとしてすんなり議会を通る。

  • 2017年7月 お茶の生産者インタビュー

    東白川村のお茶の生産者 安江辰也インタビュー。ツチノコの背景として欠かせない東白川村の戦後史の取材がメインで、昭和20年代に村の主幹産業を養蚕からお茶栽培に変えていく普及員としての活動をうかがった。

  • 2017年9月 白川町でツチノコ目撃者を含む座談会を企画

    比較的新しい目撃情報で2016年のこと、茶畑で働いていたところ、3人が同時に茶畑の通路でツチノコを目撃。ツチノコの存在を信じて取材をスタートしたわけではないが、かといって「いない」とも言い切れない、どっちつかずのニュートラルな格好をしていたが、取材をするスタンスとして確実にツチノコの存在感が大きくなっていく。

  • 2018年5月 ツチノコ探検30年記念シンポジウムを取材

    奈良県下北山村にてツチノコ探検30年記念シンポジウムを取材。

  • 2018年8月 東白川村で講演会

    伊藤龍平を北海道から誘致して「ツチノコのいま、むかし」講演会を東白川村で行う。

  • 2018年9月 東白川村現村長インタビュー

    東白川村現村長 今井俊郎インタビュー。ツチノコを起爆剤とした村おこしについては、村で育った人はツチノコはいるものだと前提にしていて、それがなくなったのは環境の変化だと感慨を抱く。上の世代はツチノコはいるものだとしている。

  • 2019年5月 東白川村つちのこフェスタ過去最多4000人の参加者

    30回目の東白川村「つちのこフェスタ」が開催される。過去最多の4000人の参加者。単にツチノコを探すだけでなく、ツチノコの模型を見つけたら景品がもらえたり、時期的に山菜が豊富なのでそれを楽しみに来る人もいる。

  • 2019年11月 山本素石 ゆかりの地

    京都市雲ケ畑の林業に従事する安井昭夫インタビュー。山本素石がツチノコを目撃した土地で他の様々な不可思議現象について調べた。妖怪譚、へびの階段、地元の古老たちから聞き取ったものなど。

  • 2021年6月 ジャパン・スネークセンター取材

    群馬県太田市、日本蛇族学術研究所(ジャパン・スネークセンター)取材。日本各地でツチノコ発見となれば、まずここで鑑定されるのが普通。ツチノコ=ヤマカガシ説が有力だという話に意見を求める。

  • 2023年5月 東白川村つちのこフェスタ再開

    東白川村つちのこフェスタ取材。3年のコロナで中止から再開。4000人の受け入れには無理があると、参加者を2000人に絞った。メディア取材は17社、フランス国営放送も取材で訪れていて、村の観光収入は3千万近くに。

  • 2023年8月 ドキュメンタリー映画完成

    東白川村にて100分版完成披露上映会。

  • 2023年10月 再構成版上映

    奈良県下北山村、完成披露上映会。前回のを再構成編集して、今後も修正を重ねる。

  • 2023年11月 70分版完成・初号試写

    取材地10県40か所以上。取材した人数は60名以上となった。

書評

東白川村ではツチノコを地域振興の一つにしており、30年以上にわたって毎年ツチノコ捜索イベント「つちのこフェスタ」を開催しています。これを実在しない架空の生物を追うくだらない催しととるか、ツチノコにロマンを求めて楽しむ恒例行事ととるか。

参加者の多くは名古屋から来てるというのもあり、普段自然に触れない人たちの息抜きやリフレッシュのようなものが本質でしょう。私もつちのこフェスタに行ってきましたが、子供から大人まで楽しめる非常に良いイベントだと思いました。

岐阜県以外、全国各地でツチノコの伝承があって捜索イベントや催しが行われてきましたが、結局つちのこに対する熱量を維持できずに下火になっていくのが多いようです。東白川村がすごいろことは村を上げて、それが数十年続いているということ。さらに村の名産品である檜とお茶もしっかりPRしています。

伝説となる物語には終わりがあってめでたしとなりますが、ツチノコの物語には終わりがなくそれが魅力になっているのかもしれません。

いま映画学校で「映像民俗学」を教えているのですが、民族に関する記録映画を民俗「学」と学にしていいのかどうか疑問がありますね。「学」としてしまうとその時点で型というか形式ができてしまう。民俗や習俗を記録するというのは、そうした型がないのではないかと思うんです。
今井友樹

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