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【人生・仕事の結果が変わる 考え方】数多くの功績を残した稲盛和夫の人生観とは

稲盛和夫の名言を抜粋して、それに細かい説明を肉付けしていくような構成の本でした。見開きに稲盛和夫の肖像写真と名言が挿入されています。

稲盛和夫

1932年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業、59年京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て97年名誉会長。84年に第二電電(現・KDDI)を設立し会長に、2001年最高顧問。2010年日本航空会長に就任し日本航空再建。同年に稲盛財団を設立し京都賞を創設。人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰している。若手経営者が集まる盛和塾の塾長として後進の育成にも心血を注ぐ。主な著書に「生き方」「働き方」「成功への情熱」「人生と経営」など。

概要

稲盛和夫の功績を振り返って、どんな境遇にあろうと「人間として正しいことを正しいままに貫く」を実践してきた『考え方』にせまる内容です。

本書から個人的に良かったセクションを抜粋して紹介します。

大きな志しを持つこと

自分の可能性をひたすら信じ、実現することのみを強く思いながら努力を続ければ、いかなる困難があっても必ず実現する。こうしたいと思っても実現するのは難しいと多くの人が後ろ向きに考えがちだが、一切の疑念を捨てて実現を信じること。これが自然と努力を引き出してくれます。

ビジネスの世界では挑戦的で独創的なことをしようとするときに必ず多くの障害が出てきます。これを克服するには一途な信念で乗り越えるしかありません。

1984年電気通信事業の自由化により国策会社の電電公社が民営化されNTTになり、通信事業への新規参入が認められました。しかし明治以来のNTTによる膨大な通信インフラに誰も太刀打ちできません。国内の長距離電話料金が世界的に見て高すぎるため、通話料金を安くする大義を掲げて不利な局面を駆け抜け、現在では市場をリードするKDDIとなりました。

誠実であること

常に正しい道を踏み誠を尽くして仕事をする。相手に迎合したり、うまく世渡りできるからといって妥協するような生き方をしてはなりません。

行き詰ると良心ではよくないとわかっていてもつい悪いことをしてしまいます。極端にいえば結果良ければすべてよしな思考に陥ります。そうして自分を納得させ悪に手を染める。どんなに難しい局面でも正道を貫く人間としての正しい姿勢は維持しないといけません。

不正や不真面目を嫌い、強い正義感を持っていた稲盛。最初の職場で開発に成功してから実質的に現場を仕切る立場にありました。戦後は業績が低迷して赤字が続き、労働争議が頻発して、待遇も悪いのでみんな一生懸命に働かず不要な残業代を稼ぐのが常態化していました。人件費が製品コストに跳ね返るので残業禁止にしても多くの不満を買うのは必至。「ここで苦労して低コストで製品を作れば、近い将来競争力がついて必ずいやというほど注文が来て残業することになる」と説得します。

管理職でもないのに経営者より厳しい要求だと労働組合で査問委員会にかけられつるし上げられた経験もありました。それでも敢然と会社の先行きを訴え正道を貫く反論で自分の正義を貫いたこと。正しいことをしていると信じていたし、同時になぜ正しいことをしてるのに理解してくれないのかと悩んで孤独を感じていました。稲盛が小川のほとりで泣いていると有名になった話です。

職場の人間関係に角が立たないように、世の中をうまく立ち回るために、自分の信念を曲げて周囲に迎合しない。嫌われても正しい主張は通さないといけない場面があります。

心が純粋であること

27歳で京セラを作って感謝を意識するようになった稲盛。経営経験もないのに、会社を設立してくれた人々にこたえるべく昼夜兼行で仕事に励み、困難な要求は自分をのばしてくれる機会としてポジティブに受け取りました。無理にでもありがたいと感謝の心を持つくらいがちょうどよい。

できるだけ欲を離れて三毒(欲望・愚痴・怒り)を完全に消せなくとも抑制するように努めました。いかに恵まれていようとも際限なく欲をかけば不足を感じ、不満でいっぱいで幸せを感じられません。幸せかどうかは人の心の状態によって決まるもので、条件を満たして得るものではありません。足るを知り、自らの心を作っていくことこそが、幸せを感じるために大切なことです。

世のため、人のために行動する

利他は社会をよりよい方向に導く心。犠牲を払ってでも世のため人のために尽くすことは、実は自分自身の人生も好転させます。一見回り道のように思えますが、情けは人のためならずといわれるように、巡り巡って自分に返ってくるもの。

見返りを求めるという話ではなく、相手の役に立った喜びそのものが、自身の誇りになるという話です。

書評

稲盛和夫という松下幸之助に並ぶ経営の神様による言葉の数々。その功績と人格からこれ以上ない説得力を含んだ一冊です。

特筆すべき点は、人間の「心」や「正しさ」に訴えかける内容が多く、経営者のみならずすべての人に通ずる誠の言葉にあふれています。難しいことは一つもないのだけど、いざ改めて考えてみると自身を見直さなければいけないことに気づかされます。

善い考え方が人を育み、周囲を奮い立たせ、社会に影響を及ぼす。そんな原点に立ち返るための「考え方」を問われているようです。

考え方

¥1,870

考え方 人生・仕事の結果が変わる
稲盛和夫

これから就職を目指す人、社会に出る人から経営者まで、人生の目的に迷うとき、生き方に悩むとき、心が晴れないとき、支えになってくれる一冊!

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【教養としてのブランド牛】牛肉の基礎知識とブランド和牛の成り立ちが分かる

20歳前後くらいのころに北海道の牧場で働いたことがあります。酪農でしたので主に乳牛の飼養管理と搾乳が仕事。

牛乳や牛のことについての基本的な知識はあっても、肉用の牛となるとまた話は別です。牛肉の基礎知識を備えておきたかったので、こちらの新書を読みました。

石原善和

黒毛和牛ブランド「石原牛」生産者、株式会社マル善代表取締役。高校卒業後、超高級和牛「村沢牛」を肥育する村沢牧場で村澤勲氏に師事。2009年に株式会社マル善設立、2017年に1500頭規模へ拡大し、2020年ブランド牛「石原牛」の出荷を開始。2021年「焼肉処石原牛」を福岡でオープン。

概要

日本のブランド牛のルーツから地域ごとの特徴、海外で愛される理由、海外の牛肉との違い、日本独自の肥育方法、等級の評価基準などブランド牛にまつわる知識が得られる一冊。

牛肉の基礎知識と昨今の和牛ブームについて知ることができます。

ブランド牛誕生と発展の歴史

世界の人をも魅了する日本独自のブランド牛、明治以降に改良が重ねられ1944年に和牛の認定が確立。

もともと在来牛は役牛として耕作や運搬などに使役されており、江戸時代までは殺生を禁じる仏教の影響や農業の貴重な労働資源といった考えから肉食は忌避されていました。

しかし滋養強壮として食されてもいて、隠語に馬肉のさくら、鹿肉のもみじ、猪肉のぼたんなどがあります。明治以降文明開化によって肉用牛の改良が奨励されるようになりました。よって和牛の歴史は意外と浅く、その割に急速に発展をとげた産業領域といえます。

著しい和牛改良の伝説スーパー種雄牛が「田尻号(1939~1954)」です。産子数1500頭近く、全体の20%の170頭が種雄牛となり、日本の和牛改良に多大な貢献をしました。2012年全国和牛登録協会の調べによると、全国の黒毛和牛の繁殖雌牛の99.9%が田尻号の子孫であることが証明されています。

300を超えるブランド牛の特徴

食肉通信社 銘柄牛肉ハンドブックによると300種以上、すべて網羅しているわけではないので実際はもっと多くのブランド牛があります。

和牛と表示できるのは黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種とこの4種間交雑種のみ。一方で国産牛に分類されるのは乳用種(主にホルスタイン)や、F1という乳用種と和牛を交配させた交雑種。

4品種あるがその98%が黒毛和種。黒毛和種はサシ(脂肪交雑)が入りやすいからです。つまり和牛=ほぼ黒毛和種といっていい。ちなみにブランド牛=すべて和牛とは限りません。

国産牛は和牛より安価で、肉専用種より早く大きく育つと言ったメリットがありまます。また肥育コストが抑えられて安く、特にF1は肉質も高く和牛に負けず劣らず。

去勢牛は品質が安定しやく枝肉重量も期待でき、一方で雌牛は肉質のきめが細かく味が良いが神経質で肥育難易度が高く品質にバラツキが出やすいといった特徴があります。肥育期間(一般的に月齢8~10か月の子牛を20か月前後肥育)をより長くしたり、与える飼料をこだわったりして地域性や特別性を打ち出します。さらに個体差という生物ならではの特性も加味されます。

日本三大和牛は神戸牛(兵庫)、松阪牛(三重)、近江牛(滋賀)、米沢牛(山口)です。近江と米沢は同列です。これらは世に名前が知られてからの長い歴史があり、300以上のブランド牛の中でも群を抜いています。

例えば神戸牛なら兵庫県産但馬牛の未経産雌牛と去勢牛で、格付け等級がA・B、4等級以上、BMS6以上など、神戸肉流通推進協議会によるブランド定義と基準が設けられています。

知られざるブランド牛の肥育方法

著者の経営や肥育方法などの経験を交えた肥育農家のこだわりが記されています。

濃厚飼料(穀物)と粗飼料(牧草)の割合、成長度合いによる調整、飼料の配合を栄養面や使い勝手から考えること。濃厚飼料は霜降りに欠かせませんが、使うほど生産コストも上がります。生き物である以上個体差はあり、ただ飼料を与えて育つものでもありません。

牛肉は豚や鶏に比べて増体するための生産コストが高く、出荷月齢も長いため肥育コストがかさみ、繁殖は1頭あたり1頭なので20頭産む豚や200以上の卵を産む鶏とは比較になりません。

設備やノウハウ、コスト面から繁殖農家と肥育農家という分業体制がありますが、繁殖から肥育まで一貫して行う一貫農家もあります。

著者は独自の経営手法を一部公開しています。市場で2番手3番手の子牛を仕入れて最高ランクに育ててコストを抑えること、血統だけでなく実際に市場で素質を見極めること。また肥育初期でしっかり腹づくりして、長期的によく食べる牛にすることを心掛けています。このように牛は手をかけるほど応えてくれる、そんな手ごたえが先人の改良を推し進めた魅力の一つかもしれません。

牛肉のランク(等級)の意味を理解し好みの味と出会う

まず等級のABCは量の判定で味に関係ありません。歩留等級と肉質等級は枝肉の第6~第7肋骨間ロース芯の切断面で判定します。部分肉歩留が標準ならB、それより良いならA、それより劣るならCです。もっというと枝肉から骨などを取り除いた大きな肉の塊、部分肉といい、さらに余計な脂やスジを取り除いたものが精肉です。枝肉の70%前後が部分肉、部分肉の80%前後が精肉になります。Aなら72%以上、Bは69~72%未満、Cは69未満です。仮に枝肉500㎏なら、部分肉は350㎏前後、精肉は280㎏前後の計算になります。つまり食肉として利用できる割合が多いかどうかの評価となっています。しかし一般的に和牛でBやCになるケースは少数で、9割はAランクになります。

肉質等級は「脂肪交雑」「肉の色沢」「肉の締まり及びきめ」「脂肪の色沢と質」の4項目それぞれ5~1段階で評価して、その中の最低ランクがついた項目に準じて肉質等級が決定します。つまり5等級はオール5でないとつかない評価であり、一つでも低い評価項目があるとそれに引っ張られて全体の肉質等級が低くなります。このことから、肉質等級も見た目を判断しており味自体は評価していないことが分かるでしょう。格付けは試食ではなく見た目の評価でしかないのでA5が美味しい肉とされてるわけではありません。とはいえその評価が味に比例してるのもほぼ事実なので、評価の高いものが美味しい可能性は高い。

肉質等級にはさらに脂肪交雑の評価に特化したB.M.S.(ビーフマーブリングスタンダード)が定められており、12段階で5等級はNo8~No12に該当。しかしこのNo8とNo12では相当な違いがあるので、同じ5等級でも脂肪交雑の差が大きいことがわかります。

さらなる差別化のポイントとして脂の質の向上、不飽和脂肪酸の含有量が注目されていまする。脂が溶け出す温度の融点が下がり口どけの良い、しつこくない脂になどが好まれるようです。

ブランド牛を堪能するには部位ごとの特徴も欠かせません。地域によって分割方法や呼び名が異なるが、公益社団法人日本食肉格付協会が定める部位の規格では13部位あります。

ネック、肩、肩ロース、リブロース、サーロイン、ひれ、肩バラ、ともばら、ランイチ、ウチモモ、しんたま、そともも、すね

ちなみに焼肉店のカルビという部位はなく、ロースは複数部位の総称です。焼肉のルーツは朝鮮料理でカルビは韓国語であばらを意味し、つまりバラ骨周辺の肉を指していて、肩バラやトモバラにあたります。さらに解釈が広がってバラ系の部位は脂肪が多いので、サシが多い肉=カルビとして提供する店もあります。よってカタロース、リブロース、サーロインなどが特上カルビとして提供されたりもしているようです。一方でロースはカルビと対照的に赤身が多い肉と解釈されています。焼肉店では13部位をさらに小分割してミスジ、ザブトン、シャトーブリアンなど呼称しています。

なぜ日本のブランド牛は世界を魅了するのか?

和牛は世界的にも個性が際立っていて、いうまでもなく霜降りが世界の牛肉の中では稀有なもの。日本独自の改良と肥育技術によって発展してきました。

ではなぜ海外で評価を得てるのに、日本でばかり注目されるのか。一つは黒毛和種が日本固有の品種だから、そして食文化の違いも影響しています。欧米人の食べるステーキの量や頻度では、脂肪が多いと飽きるし日常食品に適していません。逆に日本ではステーキが特別視されるもので、ボリュームよりもご馳走的な味わいを求めて霜降りになったと推察されます。

世界市場でのライバルは海外産WAGYUです。日本での和牛の精液や受精卵はどの国にも輸出してはいけないことになってますが、1970年~1990年にかけて和牛の遺伝子源がオーストラリアやアメリカに持ち込まれた事により、海外でWAGYUが生産されるようになりました。日本独自の和牛改良や肥育技術は簡単に真似できるものではなく、品質が高いものを維持しているが、今後も和牛が世界で通用する産物となるためにブランド力向上などに力を入れる必要があります。

書評

牛のこと、牛肉のこと、等級や牛の呼称など基本的な知識は広く解説されています。

その上で著者の自伝的な側面も交えながら、ブランド牛の成り立ちや肥育技術などちょっと踏み込んだ話まで展開されています。著者が石原牛というブランド牛を保有していることもあって、本書からのPRを感じなくもないですが、牛のプロとしての内容は参考になって説得力もあります。

日本の和牛が世界的に見ても優れた技術と品質を有しており、それを誇りに思っているのが随所に表れていました。そのブランド力を維持していくことも農家の務めであり、我々消費者にも知っておくだけで意味があると訴えかけています。

私のような庶民には和牛なんてそう口にすることはありませんが、いざ何かのご馳走や、ふるさと納税の返礼品選びなどに、最低限の知識があるだけでも選択の幅が広がりそうです。

教養としてのブランド牛

¥990

教養としてのブランド牛
石原善和

35年以上にわたって和牛の肥育を生業とし、自らもブランド牛を立ち上げた著者が、生産者ならではの目線も盛り込みながら、
ブランド牛にまつわる知識と魅力を幅広く語っています。より深くブランド牛を味わい尽くすための、「教養としてのブランド牛」を楽しめる一冊。

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【自分のアタマで考えよう】独自の視点で意見を持つための社会派ブロガーの極意

「知っている」と「考える」はまったく別モノ。

知識は過去の事実の積み重ねで、思考は未来に通用する論理の到達点です。知識の多くは過去において他の人が考えた結果を書籍や講義から記憶しているもので、考えるべき時に知識を取り出すのは他人の思考をただ提示することに変わりません。

この本では自らの頭で考えるための重要なプロセスが解説されています。

ちきりん

政治・経済・国際関係・ビジネス・キャリア・流行など幅広いテーマを、独自の視点や切り口で捉える社会派ブロガー。

概要

会議に結論が出なくてずるずると長引くことがよくあります。何かを決めるときには「情報」とは別に「意思決定プロセス」が必要なのです。

例えば買い物において価格情報をひたすら収集するのではなく、上限の値段を設定してフィルタリングすること。なんとなく夕食を考えながらスーパーへ行くより、メニューとレシピを決めてから買うべきものをリストアップすれば時間もお金も無駄がありません。

意思決定においては今求められている情報に集中することが大切で、最初に考えておくべき決めるプロセスというものがあるのです。

思考は情報収集作業ではなく、インプットした情報をアウトプットして結論に導く変換プロセスです。仮の結論でも間違っていても、なんらかの結論にたどり着くべきでしょう。

「なぜ?」「だから?」と問う

数字を見たら二つの問いを立てます。

数字の背景を探る「なぜ?」と、データの先を考え予測する「だからなんなの?」の二つ。

なぜ売り上げが伸びてるのか、そしてそれは来月にも続くのかあるいは落ち込むのか。数値で反映された事実を、人より深く読み取るために必須の考え方です。

判断基準はシンプルに

選択肢が多く判断基準が複雑になると物事の決定打が欠けます。

レストランを選ぶにしてもジャンル、味、口コミ、雰囲気、価格、立地、予約など総合的に勘案すると必ず一長一短になってしまう。だから予算は〇〇円といった条件を作って判断基準を絞っていくこと。いくつもある判断基準はすべてが同程度の重要度ではないので、その時々にもっとも重要な基準を見極めて判断する決断力が試されています。

判断基準の決定プロセスの一例に、婚活女子マトリクスにおける「相性」と「経済力」があります。相性も経済力も基準以上ならOK、どちらも基準外ならNGとなるのは明確。問題は相性と経済力のどちらかが基準を満たさないときに、どちらの基準を優先して判断材料にするか。

そこで自分軸と相手軸で考えてみましょう。相性は自分の慣れや努力次第で調整できますが、経済力は相手次第になってしまうところが大きいです。つまり相性が良くても経済力のない人より、相性がいまいちでも経済力のある人のほうが婚活女子から見た価値は高い。このような視点を持つことがシンプルな判断基準を備えるということです。

現実的にはもっと複雑な問題が多く、簡単に判断基準を絞り込むことはできませんが、思い切ってシンプルに削っていくことで本質が浮かび上がります。

データをトコトン詰める

本書では日本の自殺人口の多さとその原因データを例に出しています。

全体の自殺要因の多さを数だけで見れば健康問題が顕著で、次いで経済問題が多い。高齢化やうつ病の増加から健康問題と直結させてしまうが、見方を変えると違った側面が見えてきます。

自殺要因を男女別に並べなおすと男性の経済問題が多い。さらに年代推移をみると1998年に男性自殺率が高く、その時代背景には経済危機による金融業界の混乱が関係しています(日本列島総不況年)

対して女性は健康問題がぶっちぎりで多いが、経済問題においての自殺率は相当に低い。

自殺概要資料を一つとっても、ただ表面的な数値をなぞったものと、深く読み込んで考えた内容から受ける印象は大きく変わってきます。

知識は「思考の棚」に整理する

知識と思考の最適な関係は「知識を思考の棚に整理する」ことです。これによって個別の知識が意味を持ってつながり、全体として異なる意味が見えてくることがあります。この統合された知識から出てくる新たな意味を洞察と呼びます。

思考の棚を持っていると、次に知りたい情報を意識的にとらえることができるようになり、欲している情報に敏感になれます。これが知識の正しい格納。

さらに常日頃から考えた仮説を格納しておけば、裏付けとなる新たな情報を入手した際に、瞬発力のある思考の結論を導き出せます。気の利いた意見を述べる頭の回転が速い人は、こういった知識と思考の整理がしっかりできている人です。

書評

2005年から自分の思考をブログに書きしたためている、社会派ブロガーちきりん氏による著書。TwitterやVoicyでよく見ますが、とても参考になる話や的を射た意見が多いです。

SNSで影響力の大きい人にありがちな、とがった発言なども見られないような気がします。きっと長年インターネットを渡り歩いてきた、処世術のようなものがあるのでしょうね。

自分のアタマで考えた意見が常に支持されるとは限りませんが、借り物の意見やつまらない感想を述べる程度から脱却した、社会人としての品のある議論には欠かせないスキルだと思います。

テレビのニュースを見て「へ~」と頷いて次の日には内容を忘れてしまうような人に、思考力を鍛えるトレーニングとしておすすめできる一冊です。

自分のアタマで考えよう

¥1,400

自分のアタマで考えよう 知識にだまされない思考の技術
ちきりん

月間200万PVを誇る人気ブログ「Chikirinの日記」の筆者による初の完全書き下ろし、11万部突破!

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【道草を食む】美味しい雑草の生存戦略や不思議な生態、食べる以外の活用法

薬草料理マイスター・自然観察指導員の著者が、ポッドキャスト自然カテゴリ部門にて1位を獲得した不定期配信ラジオ「道草を食む」の書籍化。

なんとも可愛くて、賢くて、意外とおいしい 道草の世界へようこそ

Michikusa
Michikusa

薬草料理マイスター/自然観察指導員、雑草で暮らしを豊かにする方法を模索している。

概要

春夏秋冬の四季を通して楽しめる雑草21種を、その食べ方から生態や文化などの観点からスポットを当てる雑草マニアの本。植物に通じていなくても楽しく読める内容となっています。

ポッドキャストで人気番組となり書籍発売に至った稀有な例。私も楽しみに聞いており、中でも特に身近で分かりやすいお気に入りのエピソードがヨモギの回でした。

ヨモギの新芽は本来春だが、人里近い場所で何度も刈り込まれて再び新芽を出すものは通年入手可能。Michikusaさんはド根性ヨモギと呼んでいるそうです。通常のヨモギより香りが強く単体では使いにくいが、強烈な香りを乳成分でマイルドにするポタージュがおすすめ。

以下、本書で紹介された雑草を四季の中から各1種類ずつ紹介します。

【春】タンポポ 蒲公英 Taraxacum

キク科タンポポ属の多年草。セイヨウタンポポは3~9月で、在来種は種類によりさまざま。花を鼓に見立て、タン、ポン、ポンという音が由来。

亜種や変種を含めて20種以上の在来種で、都市部では主に外来種のセイヨウタンポポか在来種との雑種が多いです。その種類はタンポポの図鑑があるほど。

近年ではタンポポの冠毛が遠くへ飛ぶメカニズムを応用した極小型ドローンなどの技術も期待されています。

食材としても優秀で海外では野菜やハーブとしても食卓に並ぶほど。フランスでは苦味をおさえる遮光栽培もされています。つまり野性のタンポポは苦味があり、それが逆にほろ苦い美味しさでもあるということ。葉はペペロンチーノ、根はきんぴらに、花は彩やサラダなど。果物とあわせたタンポポジャムもよさそうです。

【夏】ツユクサ 露草 Commelina communis

やや湿った道端や畑などで見られるツユクサ科の1年草。ほぼ日本全土に分布して6~9月が収穫適期。彩鮮やかな天然の着色料ともいわれます。

朝早くに咲いて昼頃にはしぼんでしまう特徴があり、一度きりの開花でその日のうちにしぼんでしまう「一日花」と呼びます。しかし繁殖力はすさまじく、一度根をおろすと、刈り取ってもいくらでも再生するので田畑や庭の整備には手を焼くそう。

花の色素は非常に水に溶けやすく、日本の伝統工芸、友禅染の製作にもいかされています。手描き友禅の下書きの際に青花紙という絵の具の原料に用いられています。現在ではかなり限られた技術文化となっていますが。

雑草の中ではくせが少なく見た目も鮮やかなので食事に取り入れるのもおすすめ。花はサラダの彩りや、すりつぶしてゼリーやドリンクの着色に。茎葉はてっぺんのやわらかい若葉をサッと湯がいておひたしに。くせがなく、少しとろみがあり、しゃきっとした歯ごたえがあります。

グリーンの色持ちが良いので、加熱したり乾燥させても褪色しにくい利点があります。なので細かく刻んだものを焼き菓子やポタージュに活用するのもおすすめ。ツユクサパンケーキや、ツユクサの琥珀糖など。

【秋】ススキ 薄 Miscantbus sinensis

日当たりの良い場所に分布するイネ科ススキ属の多年草で、開花期は8~10月で収穫適期は4月~11月。

秋の七草になるほどポピュラーな雑草。オギなどススキとよく似た植物もあるので注意しましょう。

ススキの葉は硬く、ふちにガラス質の細かいトゲが並んでいるので、素手で安易に引き抜こうとしないように。6000万年前はこのケイ酸から構成される小さなトゲは、天敵である多くの草食動物を絶滅に追いやったとも考えられています。動物が進化してイネ科に対応したのが反芻という機能。牛やヤギなどに備わっており、繊維質の植物も消化できるようになりました。

我々は消化できないので、お茶にするのがおすすめ。穀物茶のような香ばしさとほのかな甘みに、すっきりとした味わいです。

【冬】スイバ 酸葉 Rumex acetosa

田畑周辺や河川敷など人里近く開けた土地で見かけます。

その名の通りかじると酸っぱい味がして、ヨーロッパ圏ではソレルやオゼイユという呼び名で野菜やハーブとして栽培される食材。

越冬植物によくみられる特徴の、葉を地面に放射状に這って広げたロゼットになっています。風雪や乾燥から身を守りながら太陽光を効率よく受け取れる生存戦略です。地面に対して面積を多く占有することで、あとから芽吹く植物に対してアドバンテージを保つ効果も。

通常時は明るい緑色をしているが、寒い季節は部分的か全体が真っ赤に紅葉する個体があります。

スイバの酸味を生かした梅肉風は、この赤い葉を収穫したほうがそれらしくなるのでおすすめ。

書評

七草をはじめ、草餅の原料となるヨモギやつくしの佃煮など、雑草は意外にも身近で、日の目を見ることのないものも活用の仕方でとても暮らしが豊かになります。そんな魅力を伝えたいという思いがこもった一冊。

雑草は山菜取りや園芸よりも手軽で、フィールドワーク的な楽しみもあるのがメリット。食べるだけでなく薬効、染料など、先人の知恵がつまった活用まであります。

本書の中でこれだけ覚えておけば役に立ちそうだなという一文。『手で抵抗なく折り取れる箇所』で収穫することが雑草や山菜を収穫するうえでも大切なポイント、とのこと。これに限らない植物もあるかもしれませんが、多くの食用草花に通用する知識は覚えておいて損がありません。

雑草紹介のほかにコラムが10本掲載、丁寧な雑草レシピ、落ち着いたマット調の素敵な写真など、役立つ知識や見て楽しめる要素が満載です。

「花外蜜腺」「バイオミメティクス」「アレロパシー」といった専門用語も時々ありますが、わかりやすい説明も含んでいるので問題なし。

注意喚起として書かれていますが、雑草採取の際はモラルとマナーを守って、毒草や外来生物の扱いに気を付けて行うようにしていきましょう。

ちなみに本書の中で個人的に一番食べてみたいのが「スベリヒユ」でした。地域によっては園芸種として栽培されているようです。肉厚でシャキッとしていて、ぬめりがあり、ほのかな酸味もあって、ダントツで食味の良い雑草だそうです。その上、植物性オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸が豊富であったり、スーパーフードと呼ばれるほどポテンシャルのある植物なんですね。

道草を食む

¥1,870

道草を食む 雑草をおいしく食べる実験室
Michikusa

薬草料理マイスター/自然観察指導員 によるPodcastが書籍化!自然カテゴリ1位「道草を食む」を気まぐれに配信。

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【鬼速PDCA】目標達成したい全ての人必携のビジネス書

PDCAマネジメントの決定版となる10万部突破のビジネス書。

実行するときは自信満々で。検証するときは疑心暗鬼で。これがPDCAの基本である。

1章 前進するフレームワークとしてのPDCA
冨田和成

株式会社ZUU 代表取締役社長 兼 CEO、一橋大学卒。野村證券にて数々の営業記録を樹立し、最年少で本社の超富裕層向けプライベートバンク部門に異動。2013年、「世界中の誰もが全力で夢に挑戦できる世界を創る」ことをミッションとして株式会社ZUUを設立。過去にGoogleやFacebookも受賞した世界で最も革新的なテクノロジーベンチャーアワード『Red Herring Asia Top 100 Winners』受賞。

概要

わかっているようで、実はよく理解されていないビジネスフレームワーク『PDCA』

特に重要なことは適切な計画、検証頻度、実行サイクル。これらを鬼速で回すから、ほかよりもいっそう飛び抜けたスピードで前進できるのです。

前進するフレームワークとしてのPDCA

世間が抱くPDCAには6つの誤解があります。

  1. PDCAの真価を発揮するのは容易でない
  2. 管理職向けのフレームワークではなく成長スキル
  3. 失敗は検証の甘さより計画から破綻してる
  4. 課題解決より再現性が重要
  5. 改善して終わらずさらに上位のサイクルを回す
  6. 大きな課題だけでなく複数のサイクルを抱える

実現したい目標の上流から細分化して、それぞれにサイクルが存在するようなイメージが本来のPDCAサイクルです。

ギャップから導き出される「計画」

PDCAの計画においては慎重さと大胆さのバランスが肝要で、その時点で可能な限り精度の高い仮説を立てる。

  1. KGI(Key Goal Indicator)の設定
  2. 期日を決めて目標を定量化
  3. 現状とギャップの洗い出し
  4. ギャップを埋める課題を考える
  5. 課題に優先度を与えて3つに絞る
  6. 各課題のKPI(Key Performance Indicator)の設定
  7. KPIを達成する解決案を考える
  8. 解決案に優先度を与える

KPIを掲示したり計画を可視化して、計画を強く意識付けすると効果的。

仮説の精度を上げる「因数分解」

サイクルの速さと深さは因数分解で決まり、これには仮説精度の向上が欠かせません。ゴールと現状を構成する因子をマインドマップで図式化します。

ポイントは抽象度を上げてから分解していき、5階層目まで深堀りしていくこと。特に1段目は漏れなく重複なく分類するためのMECE(ミーシー)を徹底しましょう。

確実にやり遂げる「行動力」

計画から導き出したKPI解決案を業務フローに落とし込み「Do」と「ToDo」に振り分けていきます。

「Do」が解決案に対するアクションで、それをすぐに取り掛かれるタスクにしたものが「ToDo」です。

  • 「Do」に優先順位をつける
  • 「Do」を定量化してKDI(Key Do Indicator)を設定
  • 「ToDo」に落とし込んで具体的なタスクとして着手できるレベルにする

鬼速で動くための「タイムマネジメント」

居心地の良いコンフォートゾーンを抜けて、キャパを超えるほどのパニックゾーンまで行かない程度の、ラーニングゾーンで適度なストレスをかけながらタイムマネジメントをしていくこと。無理はしないがぬるい環境には甘えない成長意欲が試されます。

タイムマネジメントの原則は「捨てる」「入れ替え」「圧縮」の順番で工数の棚卸をすることです。

正しい計画と実行の上に成り立つ「振り返り」

検証に失敗する2大パターンは「やりっぱなしの未検証」か「検証しかせず形だけ」の両極端。PDCAの要諦だと思われる部分だが、計画の精度が甘くKPIもないとまともな検証になりません。

  • KGIの達成率をKPIの進捗率から算出(月1回)
  • KPIの達成率はそれぞれ1~3週間の短期スパンで繰り返す

KPIが計画通り推移しない4大原因は以下のどれか。

  1. 行動が伴ってない
  2. 行動不十分
  3. 想定外の課題
  4. 仮説と因果関係が間違いKPIとKDIの連動がとれていない

書評

PDCAにおける重要なフェーズ「計画」と「実行」が初級・応用に分けて解説されています。まずは初級のステップだけで実践し、マネジメントに慣れてきたら応用も取り入れることができそうです。

また、本書では『優先順位』という言葉が多用されており、とくにIT業界の開発用語『アイスボックス』をToDoにも応用し、いつかやるけど今やることではないものをタグ付けして管理しています。先送りすることは悪いことではなく、タスクを可視化して留保する手段として活用しています。

それぞれのマネジメント段階で補足も添えられており、解りやすく丁寧なハウトゥー本だと思いました。PDCAサイクルを実際に回していく説明に並行して、英会話修得やダイエットなど実例を交えているのも理解の助けになります。

本書ですすめられたマネジメントツールは主に2つ。思考の整理に用いるロジックツリーやマインドマップが作成できるXmindと世界一メジャーなタスク管理ツールTodoistのみ。どちらも無料で十分使えるソフトです。

※タスク管理は古典的なポストイットでも効果的だと書かれています。

PDCAそのものはシンプルなフレームワークで、必要とするツールも最低限で済むが、シンプルゆえに適切な運用をしないと効果が十分に検証されてないことが分かりました。

まとめ

  • Plan – KGI(ゴール)とKPI(課題)を設定して解決案を出す
  • Do – 解決案を具体化したDoからKDIを設定して、即行動できるレベルのToDoに分解
  • Check – KGI、KPI、KDIの検証をして、できなかった要因とできた要因を絞り込む
  • Action – 検証結果を踏まえた調整案で次のサイクルにつなげる

経営者や中間管理職などビジネスマンから、個人で仕事や勉強の目標を打ち立てている人、他者のサポートを主とした業務に従事するかた必携の一冊です。

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【ツチノコ撮影日誌】岐阜県東白川村のツチノコ本気捜索へ行く前に読んだ本

私は岐阜県在住なので、図書館の岐阜に関連した書籍の特設エリアはついチェックしていきます。

ツチノコ撮影日誌は岐阜県東白川村をメインフィールドに、ツチノコの歴史や文化を追ったドキュメンタリーです。

ツチノコが架空の生物だということは多くの人の共通認識だと思いますが、東白川村では30年以上にわたってツチノコ振興イベントが継続しており、ツチノコを信じている人も多いことをご存じでしょうか。

今井友樹

1979年岐阜県東白川村生まれ、ドキュメンタリー映画監督。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業。2004年に民族文化映像研究所に入所し、所長・姫田忠義に師事。2014年に劇場公開初作品・長編記録映画『鳥の道を越えて』を発表。2015年に株式会社「工房ギャレット」を設立。

概要

ツチノコの特徴は、平たい頭部に首のくびれ、太い胴、黒やこげ茶の大きなウロコ、細くて短い尻尾、大きく鋭い目。毒はあるとかないとか諸説あり。

その歴史は古く縄文時代から生息したといわれています。岐阜県高山市の飛弾民族考古館には6000年前のツチノコ形の縄文石器が確認されています。江戸時代中期の図説「和漢三才図会」には野槌蛇として絵入りで紹介されているようです。

東白川村では「ツチヘンビ」と呼び、隣の中津川市付知町では「ヘンビの大将」白川町黒川では「ころがりヘンビ」などと全国的にもさまざまな呼び名があります。

ツチノコの文化的・民俗学的な話に触れつつ、ツチノコの目撃情報や生息地での民家のインタビューなども記載されていました。

ツチノコブーム

最初のツチノコブームは故山本素石の「逃げろツチノコ」から。

週刊少年マガジンにて「幻の怪蛇バチヘビ」の連載をした矢口高雄の功績もあって、子供を巻き込んでブームを席巻しました。そしてドラえもんや水木しげるの漫画にも登場してきました。

昔の人は想像力が豊饒で自然のひとつひとつから物語を織りなしていき、鼠を飲み込んだ蛇をツチノコと読んだりした可能性も否定できないでしょう。

本書ではツチノコに似ている生物にヤマナメクジとアオジタトカゲが紹介されています。個人的にはアオジタトカゲの手足が隠れていれば想像のツチノコにそっくりなので、ペットで逃げ出したツチノコを見間違えた説が濃厚だと思っています。

今井監督のツチノコ取材

実は本の骨子になっているのは著者である今井監督の自伝であり、どうしてツチノコを題材にした映画を撮るのか、それらの背景をベースに自分がどのようにしてドキュメンタリー映画監督への道を歩んできたか、そしてどんな作品を撮ってきたかの話が語られていました。

ツチノコ映画のための取材と今井監督の記憶をたどる自伝が交互に構成されていますね。

取材の進行が時系列に沿って、着実にツチノコと東白川村の歴史にせまっていくのが本書の見どころ。ツチノコを見た人や目撃談を聞いた人など、ツチノコを信じている人の中には、しっかりとツチノコの存在が根付いているということが大事です。

  • 2016年8月

    ツチノコ取材開始

    東白川村と近郊地域の新聞の折り込みチラシにツチノコ目撃情報の提供を呼び掛ける。東白川村元村長 桂川眞郷インタビュー。立村100周年と竹下登政権時の1億円ふるさと創生事業などもあって、ツチノコ捜索イベントが村おこしとしてすんなり議会を通る。

  • 2017年6月

    女性3人のインタビュー

    岐阜県中津川市付知町にて、谷間の集落でツチノコが斜面をコロコロ転がっている目撃談。茶畑でツチノコを見たという話。

  • 2017年7月

    お茶の生産者インタビュー

    東白川村のお茶の生産者 安江辰也インタビュー。ツチノコの背景として欠かせない東白川村の戦後史の取材がメインで、昭和20年代に村の主幹産業を養蚕からお茶栽培に変えていく普及員としての活動をうかがった。

  • 2017年8月

    民俗学者インタビュー

    北海道にて民俗学者 伊藤龍平 インタビュー。ツチノコについて民俗学的に発言している数少ない学者の一人。著書「ツチノコの民俗学ー妖怪から未確認動物へ」

  • 2017年9月

    本村役場職員インタビュー

    本村役場職員 安江誠インタビュー。産業振興課で最初からツチノコ捜索イベントを担当しており、以来長期間関わる。

  • 2017年9月

    白川町でツチノコ目撃者を含む座談会を企画

    比較的新しい目撃情報で2016年のこと、茶畑で働いていたところ、3人が同時に茶畑の通路でツチノコを目撃。ツチノコの存在を信じて取材をスタートしたわけではないが、かといって「いない」とも言い切れない、どっちつかずのニュートラルな格好をしていたが、取材をするスタンスとして確実にツチノコの存在感が大きくなっていく。

  • 2017年12月

    村の中学生に意識調査

    意識調査として村の中学生に対してアンケート。「いると思う」という子もいる反面「いるはずない」と答える子もいる。

  • 2018年4月

    ツチノコ探検懐古展の事前取材

    奈良県下北山村で野崎和夫とツチノコ探検懐古展の事前取材。30年前にツチノコイベントを開催した中心人物。

  • 2018年5月

    つちのこフェスタ第30回中止

    東白川村つちのこフェスタ30回目は前日の大雨で中止。つちのこ神社で祭礼が例年通り行われる。

  • 2018年5月

    ツチノコ探検30年記念シンポジウムを取材

    奈良県下北山村にてツチノコ探検30年記念シンポジウムを取材。

  • 2018年6月

    野崎和生インタビュー

    改めて下北山村で野崎和生インタビュー。イベントのプロデューサ的な立場として、関西圏から人を呼び込むツチノコ共和国などの遊び心溢れる工夫をしてきた。

  • 2018年8月

    東白川村で講演会

    伊藤龍平を北海道から誘致して「ツチノコのいま、むかし」講演会を東白川村で行う。

  • 2018年9月

    東白川村現村長インタビュー

    東白川村現村長 今井俊郎インタビュー。ツチノコを起爆剤とした村おこしについては、村で育った人はツチノコはいるものだと前提にしていて、それがなくなったのは環境の変化だと感慨を抱く。上の世代はツチノコはいるものだとしている。

  • 2019年1月

    新田雅一 インタビュー

    ツチノコブーム発祥の故山本素石の作ったノータリンクラブの創立メンバー最後の生き残りである新田雅一の住む神戸市でインタビュー。民俗学者の伊藤龍平も同行した。クラブは存在しているが実質的な活動はしていない。

  • 2019年4月

    広島県上下町インタビュー

    広島県上下町の松井義武、平野巌インタビュー。東白川村や下北山などと同時期に町おこしを試みた地域。食糧事務所のお堅い仕事に就く所長の目撃談から始まり、うそをつく人でもないので捜索イベントが開催された。しかし2年で終わる。表向きは危険だといわれる生き物を探すイベントへの苦情だが、実際のところは存在しないものを探すという意味のないイベントに必要性がないというのだろう。

  • 2019年4月

    岡山県赤磐市インタビュー

    鈴鹿真一、藤本誠一、青山敏夫インタビュー。岡山県赤磐市にて。彼ら「つちのこ研究会」が窓口となり、ツチノコ関連イベントが行われていた。発見時の懸賞金2000万円は町が提供する。発端は平成12年にツチノコらしき死骸が発見されたが、鑑定に出すがヤマカガシの変種だった。この話題性、岡山の大蛇伝説などの蛇との因縁もあり、捜索イベントなど同時期に行われてツチノコの里となった。

  • 2019年4月

    兵庫県インタビュー

    兵庫県美方郡香美町で宮脇壽一にインタビュー。ツチノコ目撃例が多く、「つちのこ探検隊」を企画し捜索を行ったりした。懸賞金ではなく土地100坪が進呈される。今も存続しているが活動は緩やかで、親睦や交流コミュニティのものだ。
    兵庫県宍粟史にて平瀬景一に取材。町役場の職員をしていた。1992年当時に2億円の懸賞金をぶち上げて話題になったが、行政の「どうせいない」という驕りからくる話題性の為のエスカレートに嫌気がさし、ツチノコハンターたちのカンに障った。2億の財源をどうするのか聞くと、そのツチノコを売ればいいという拝金主義的なやり取りに、ノータリンクラブの人たちも微妙な印象を持っていた。

  • 2019年5月

    東白川村つちのこフェスタ過去最多4000人の参加者s

    30回目の東白川村「つちのこフェスタ」が開催される。過去最多の4000人の参加者。単にツチノコを探すだけでなく、ツチノコの模型を見つけたら景品がもらえたり、時期的に山菜が豊富なのでそれを楽しみに来る人もいる。

  • 2019年7月

    京都市取材インタビュー

    山本素石のツチノコ遭遇場所である京都市北区雲ケ畑加茂川支流へ取材。京都国際日本文化研究センターにて「故郷の喪失と再生」の著者、安井眞奈美インタビュー。ふるさと創生事業の背景と評価、東白川村のツチノコを活用した取り組みについて意見をきく。

  • 2019年11月

    山本素石 ゆかりの地

    京都市雲ケ畑の林業に従事する安井昭夫インタビュー。山本素石がツチノコを目撃した土地で他の様々な不可思議現象について調べた。妖怪譚、へびの階段、地元の古老たちから聞き取ったものなど。

  • 2019年11月

    糸魚川つちのこ探検隊インタビュー

    新潟県糸魚川市、2005年発足から毎年捜索を行っている民間の有志で運営され、精力的かつ地道な活動は山本素石のいう本来のツチノコ探検隊を体現している。隊長の丸山隆志、事務局の清水文男、旅館経営の斎藤武司に取材。全員スタートからのメンバー。発足翌年に探検隊の公募が始まり、地元の企業6社から懸賞金1億の資金をつくり、回を重ねるごとにグッズやテーマソングなどを制作していった。

  • 2020年5月

    コロナ渦

    コロナ渦で取材が進まない。息子と父親との釣り風景を撮影して映画のシーンとして使う。以降、村内の様子や自然の撮影などが続く。

  • 2021年6月

    ジャパン・スネークセンター取材

    群馬県太田市、日本蛇族学術研究所(ジャパン・スネークセンター)取材。日本各地でツチノコ発見となれば、まずここで鑑定されるのが普通。ツチノコ=ヤマカガシ説が有力だという話に意見を求める。

  • 2021年9月

    動物学者インタビュー

    東京都町田市、動物学者でUMAの生みの親である實吉達郎インタビュー。ツチノコのようないそうでいない動物は1970年代まではリアリティを保っていたが、1980年代に入るとUMAという言葉ができツチノコもそれに分類され、このことが心性に影響した。

  • 2021年10月

    ツチノコブームの分析

    東京都中野区、著述業の山口直樹「幻のツチノコを捕獲せよ‼」にインタビュー。ツチノコブームが起きた現象と、それが鎮まる過程について分析する。

  • 2021年12月

    アオジタトカゲの取材

    兵庫県淡路市、淡路ファームパークイングランドの丘にて、アオジタトカゲの取材。一般に出回るツチノコの画像は、手足の隠れたアオジタトカゲそのものといっていいくらい酷似している。元来オーストラリアに棲息するトカゲで、大きいと70㎝程になる。胴体が太く頭が小さい、足は短く、舌が青い。1970年ころからペット用として日本に入り、普通の家でも飼育される。大1次ツチノコブームとも時期が合う為、ペットのアオジタトカゲが逃げ出して山林や田畑で生き延びたものが目撃されたのが最も有力。だが江戸時代の文献や明治からの目撃談には該当しないだろう。

  • 2022年10月

    白川茶屋の取材

    東白川村、平成初めに開店した白川茶屋の取材。ツチノコブームの加工品などを販売しており、ツチノコに頼らず郷土料理なども商品化している。

  • 20123年5月

    東白川村つちのこフェスタ再開

    東白川村つちのこフェスタ取材。3年のコロナで中止から再開。4000人の受け入れには無理があると、参加者を2000人に絞った。メディア取材は17社、フランス国営放送も取材で訪れていて、村の観光収入は3千万近くに。

  • 2023年8月

    ドキュメンタリー映画完成

    東白川村にて100分版完成披露上映会。

  • 20123年10月

    再構成版上映

    奈良県下北山村、完成披露上映会。前回のを再構成編集して、今後も修正を重ねる。

  • 2023年11月

    70分版完成・初号試写

    取材地10県40か所以上。取材した人数は60名以上となった。

書評

東白川村ではツチノコを地域振興の一つにしており、30年以上にわたって毎年ツチノコ捜索イベント「つちのこフェスタ」を開催しています。これを実在しない架空の生物を追うくだらない催しととるか、ツチノコにロマンを求めて楽しむ恒例行事ととるか。

参加者の多くは名古屋から来てるというのもあり、普段自然に触れない人たちの息抜きやリフレッシュのようなものが本質でしょう。私もつちのこフェスタに行ってきましたが、子供から大人まで楽しめる非常に良いイベントだと思いました。

岐阜県以外、全国各地でツチノコの伝承があって捜索イベントや催しが行われてきましたが、結局つちのこに対する熱量を維持できずに下火になっていくのが多いようです。東白川村がすごいろことは村を上げて、それが数十年続いているということ。さらに村の名産品である檜とお茶もしっかりPRしています。

伝説となる物語には終わりがあってめでたしとなりますが、ツチノコの物語には終わりがなくそれが魅力になっているのかもしれません。

いま映画学校で「映像民俗学」を教えているのですが、民族に関する記録映画を民俗「学」と学にしていいのかどうか疑問がありますね。「学」としてしまうとその時点で型というか形式ができてしまう。民俗や習俗を記録するというのは、そうした型がないのではないかと思うんです。

今井友樹
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【人生、このままでいいの?】最高の未来をつくる11の質問ノート

どんなとき幸せで、どうすれば幸せが増えるか。この本の最初の質問です。

極論すべての人々は幸福を求めて生きていると思われますが、いざこのように質問されると、そういえば自分にとっての幸福ってなんだっけと思いとどまるかもしれません。そして幸福だと思っていたものが、実は他人の欲望や幸福をなぞっただけのものだったりするかもしれません。

私たちが幸福な未来を切り拓いていくための質問がこの本に用意されています。

河田真誠

広島でデザイン会社を経営し、1000人規模の講演会を開催する団体を主宰。より心地よい生き方をするために、2010年からは活動の拠点を東京に移し「質問家」としての活動をしている。生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「しつもんの専門家」として、企業研修や学校で授業を行い、日本だけでなく世界各地でも仕事をしている。

概要

本書は11の質問によりあなた自身の力で幸福に導く道筋に気づかせようとしてくれます。

書き込み式のノートのような構成なので、読書というよりも考えながら自分を見つめなおすワークショップだと思ったほうがいいです。

例えば本書の中から6つ目の質問「どんな自分でいたいか」

自分の性格は自分自身によって形成されてきたものです。環境が要因しているものもあるかもしれませんが、同じ環境にいる人でもそれぞれ違うように人は成長します。つまりどのように生きていくかは自分の選択によって作られるのです。

それを踏まえて自分をどんな人だと思うか、周りからどんな人だと思われたいか、自分のどこが好きで、自分のどこが嫌いか、自分らしく居られる場所はどこか、心地良いと思うのはどんな時か。

これくらい深堀りして一つの質問を突き詰めていきます。

これらを問いかけをその場でじっくり考えても、意識し続けないと自分のことでもすぐに忘れてしまいます。書き出したものを壁に貼ったり、待受けにしたり、寝る前に振り返ったり。そして必ず行動に移すこと。

同じ質問でも時間がたって、環境が変わったり価値観が変われば、回答も変わってくるでしょう。時々振り返って繰り返し質問に答え直すことが大事です。

このような自己分析やキャリア概論などは学生のときにやったことがある人も多いかもしれませんが、社会に出た大人になってからやると、また答える内容も変わってくると思います。

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【サクッとわかるビジネス教養地政学】世界の国同士のバランスがざっくり分かる一冊

世界の情勢や、国同士の立ち位置や力関係など、ぼんやりニュースを見ているだけでは見えてこない視点を、地政学というアプローチで分かりやすく解説してくる本。

結局は土地を持つことがすべて。軍事的に優位な立地、経済的に豊かな土地、このような恵まれた土地の有無が国同士の駆け引きの肝になっているのです。

著者のブログ「地政学を英国で学んだ」は国内外問わず多くの専門家から注目され、最新の国家戦略論を紹介しています。

※2022年2月からロシアとウクライナの戦争が起こったため『ウクライナ侵攻の真相』が加筆・PDF配布されています。

奥山真司(監修)

地政学・戦略学者。戦略学Ph.D.(Strategic Studies)国際地政学研究所上席研究員。多摩大学大学院客員教授。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディンク大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。地政学者の旗手として期待されており、ブログ「地政学を英国で学んだ」は、国内外を問わず多くの専門家からも注目され、最新の戦略論などを紹介している。現在、防衛省や大学などの教育機関で地政学や戦略論を教えている。また、国際関係論、戦略学などの翻訳を中心に、若者向けの国際政治のセミナーなども行う。

概要

本書ではとくにアジア(中国VSアメリカ)、中東(イランVSアメリカ)、ヨーロッパ(EU・NATO VSロシア)の地理的な衝突から国のふるまいをマクロな視点で言及しています。

地政学を戦略に活用すれば「道」や「要所」をおさえてエリアを支配するのが効率的でしょう。

国の存続に物流は欠かせないものとなっており、地理条件から経路が限られている要所をおさえるのが戦略です。

地政学の基本的な概念

地政学は地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えるアプローチ。

世界の覇権国アメリカは関与レベルを以下の段階にしています。

  • 全土に出向いて軍隊を常駐させ国を管理下におく完全支配
  • 重要なエリアにのみ軍隊を駐留させ必要な部分のみコミットする選択的関与
  • 領土に出向かず離れた位置から必要に応じて圧力をかけるオフショア・バランシング
  • 対外戦略の1つとして軍隊を撤退させ重要なとき以外は派兵しない孤立主義

突出した強国をつくらず勢力を同等にして秩序を保つ国際メカニズムにあたるバランス・オブ・パワー。

海路(ルート)上の絶対に通る関所をチョーク・ポイントとし、具体的には陸に囲まれた海峡や、補給の関係上必ず立ち寄る場所のことをいいます。パナマ運河、マゼラン海峡、スエズ運河、イギリス海峡、台湾海峡など。

大陸国家によるランドパワー、海洋国家によるシーパワーは歴史的に大きな国際紛争を伴って常にせめぎ合ってきました。これらを両立することはできず、大陸国家が海洋進出をすると大抵失敗してきた歴史があります。

ハートランドはユーラシア大陸の心臓部で現在のロシアあたりのこと。寒冷で住みづらく文明は栄えていません。リムランドはユーラシア大陸の海岸線に沿った沿岸部で経済活動が盛んなエリア。世界の大都市の多くが集中しています。つまりリムランドは、ハートランドのランドパワーと周辺のシーパワーという、勢力同士の国際紛争が起きやすい場所となります。

関係国とのリアルな情勢を知る

日本は島国という地政学的な優位性で独立を保ってきましたが、長きにわたりそれを維持できる国はほとんどありません。日本の鎖国が破られたのも必然だったのです。

次に北方領土問題について。なぜロシアから返還されないのか3つの理由があります。1つはロシアにとって対アメリカの防衛拠点のため、2つに北極海ルートが貿易の新しい道になる可能性があり、3つに日本にとって地理的メリットのない土地だからです。

そして日本の米軍基地について。アメリカにとって沖縄米軍基地がいかに完璧な拠点であるか、そもそも米軍が日本にとって抑止力以外のどんなメリットがあるのか、対馬列島や尖閣諸島の衝突の根底にある近海の争いなど解説されています。

アメリカ・ロシア・中国の戦略

孤立した大きな島だからこそ巨大なシーパワー国家になれたアメリカは、地政学的に恵まれており、他国から侵略されにくく戦力を国外に向けやすかったため世界の覇権を握ったとされています。ユーラシア大陸のリムランドにある戦略地域において、バランスを見ながら台頭する国が出てきたら積極的に介入しているのが、アメリカが世界の警察と呼ばれる所以ですね。

ロシアは海外に進出するルート、広大な領土を守るバッファゾーンなどに焦点をあてています。とくにクリミア併合は黒海ルートに影響力をもつために絶対におさえておきたく、NATO勢力とのバッファゾーンとしてウクライナも外せません。

中国は海洋進出を目論んでいるが、地政学的にはありえない戦略を立てています。点で拠点をとらずに、海に線を引いて面でアプローチする一帯一路構想です。

アジア・中東・ヨーロッパの地政学

東南アジアの小国は大国を天秤にかけて駆け引きをしながら立ち回っています。安全保障はアメリカに、経済は中国にといった具合です。

中国の裏で急成長しているインドは、石油ルートを巡り中国との対立があります。中国は海洋進出したいところで、両者にとってインド洋が重要な石油の確保ルートになるからです。

小さな都市国家でもシンガポールが発展できたのは、アジアのハブとして高いポテンシャルがあったこと。チョーク・ポイントであるマラッカ海峡に接して貿易拠点になることなど地政学的利点があったからです。奄美大島くらいの国土面積にもかかわらず、一人当たりのGDPは日本を上回っています。

中東は古くは貿易の中継地として、近代では石油の産出地として常に世界の要所となっています。かつてオスマン帝国の時代は平和だったのが、今では世界でもっとも混迷を極めるエリアに。

戦後植民地から独立し独裁者が乱立、ソ連崩壊後に独裁政権が倒され春のアラブが起き、宗派対立や部族紛争が多発して政府の力が及ばない空白が生まれISも誕生しました。さらにサイクス・ピコ協定が中東の分布を強引に分断したため、それぞれが国への帰属意識がありません。長らく他国が統治する傀儡国家だったので、独裁的な指導者でないと国を治めにくい体制になってしまっています。

ヨーロッパは大きな半島とも見れるので、大国同士のせめぎ合いの影響を受けます。東のロシア、南のイスラム諸国とせめぎ合いを続けてきました。小国の多いヨーロッパが対抗手段として経済協力のEU、軍事協力のNATOを発足。そしてイギリスが独自の外交戦略においてEU離脱した理由、戦後のドイツ経済が発展した経緯、なぜフランスでテロが多発するのかといったことが語られます。

書評

アメリカと中国の関係、沖縄基地や北方領土の問題、中国の一帯一路、イギリスのEU離脱、香港デモなど、世界情勢の「なぜ」がよく分かる一冊です。カラー図解が豊富で、タイトル通りサクッと読み進めるのにちょうど良いですね。

国際問題には宗教、民族問題、人種、歴史的対立などあって、地政学ではあくまでも地理を前提に、ビジュアライゼーションの概念で紐解いていきます。また、戦争における戦略概念には上位から順に世界観、政策、大戦略、軍事戦略、作戦、戦術、技術という階層があり、その中の上から3番目にあたる大戦略が地政学的観点です。

地政学に義理人情や好意など一切なく、国益第一の領土や権力争いで殺伐とした話になりがちです。こうしてみると世界平和なんて耳障りの良い言葉も、それぞれの世界観、国、人、民族、宗教によって、そもそもどのような状態が平和なのかが異なります。人びとが自分たちに都合の良い平和を求めるからこそ絶えず争いがおこり、平和を求めることこそまた争いの種になっているのが皮肉な哀しい話です。

関連書籍に「13歳からの地政学」も紹介しています。こちらは本書「ビジネス教養地政学」では取り上げられていないアフリカの経済事情にも言及されていました。ビジネス教養地政学は各国の軍事的な思惑や戦略による地政学の話がメインで、「13歳からの地政学」はより解釈の広い経済や地球の将来まで含めた物語形式になっています。

サクッとわかるビジネス教養地政学

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ビジネス教養 地政学 サクッとわかるビジネス教養
奥山真司(監修)

国際情勢を読み解く必須知識「地政学」の定番書、20万部突破!

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【13歳からの地政学】地理と歴史と経済のポイントを線でつなぐ

ビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」を受賞し、20万部以上売れている地政学関連で最も注目の入門書です。

おすすめされて読んでみましたが、13歳とは言わずに大人でも一読の価値ある良書でした。

田中孝幸

国際政治記者。大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで取材した。

概要

アンティークショップの貿易商である「カイゾク」が、二人の少年と少女に7日間の講義形式で地政学を教える物語仕立ての入門書です。

それぞれの章を簡潔にまとめました。

物も情報も海を通る

貿易の9割は海を通って実現しています。もっと空輸も活用されているのかと思いきや、圧倒的にコスト面で海路が利用されています。

また海底ケーブルは情報をの要。さらに海の深さにも着目すると日本の海水体積は世界トップクラスであり、経済的にも優位な点があります。

地政学においてまずは『海』の重要性をおさえなければなりません。

日本のそばに潜む海底核ミサイル

海の話につながりますが、核ミサイルは3つの条件で最大効力を発揮します。

  • 原子力潜水艦
  • ミサイルの発射力
  • 潜水艦を隠せる海

これらの条件を揃えているのが現在はアメリカとロシア。そして中国が南シナ海を欲しがる理由が、この海底核ミサイルをおさえられるからです。

核ミサイルが外国への牽制力になるように、国の位置が外交を決めているのが地政学的見かたです。

大きな国の苦しい事情

主にユーラシア大陸のロシア、中国、ふたつの大国。どちらも陸続きで多くの国と接しているのが共通します。

隣接する国同士は関係性がデリケートになります。昔と今で地図を見比べてみると、国境の形が違うのは領土紛争があった証。

また、国内での少数民族による独立運動など、国外へ出ていこうとする遠心力と現行の国が引き留めようとする力の二つが常に動いています。こういった治安維持に大金を必要とするのも大陸国の特徴。管理が難しく領土を守るのに困難を伴います。

絶対に豊かにならない国々

なぜアフリカにお金がないのか。気候や食糧問題ばかり取り沙汰されるが、実は天然資源が豊富で、サハラ砂漠は大陸の1/3以下で緑や水も豊か。住みやすい土地も多い。

その理由は端的にいって政治家が海外に金を流してるからです。アフリカが大国の植民地支配の歴史にあり、ヨーロッパやアメリカがそのお金を吸い上げている。そんな構造は現代でも変わらず、アフリカの上層と外国がタッグを組んでいるのです。

この根本を解決しない限りアフリカはいつまで経っても貧しいまま。

このようなリーダーが多く軍事政権や独裁政権が多いのは、国境を定規で引いたヨーロッパの国々の支配にあったからです。各国の事情を知らずに分断された国境では、民族や部族間で遠心力が働き国としてまとまることはありません。それ故に手っ取り早くまとめるには強引なリーダーしかいないのです。

悪い歴史を継承しながら、先進国で誰もやりたがらない辛い仕事を押し付けるために、常にアフリカを弱らせている節もあるでしょう。

フェアトレードのチョコレートはカカオ農家と公正な取引で買っていることを示しますが、逆に言えばほかのチョコは押しなべてフェアな取引ではないことを意味します。カカオをアフリカで加工して輸出する方が絶対にいいのに、誰も技術や機械、お金、教育などアフリカのためにお金を使いません。

アフリカに貧しいままの悪循環を維持させており、さしずめ現代資本主義の奴隷制度のようなものと言えるでしょう。安くて良い物の危うさは、このように誰かの犠牲に成り立っていることがあります。安い理由には技術を高めて効率化して安くするか、人を安く雇って使う、この2パターンしかありえないのです。

地形で決まる運

アメリカは世界一恵まれた土地です。二つの大海に接し、赤道や北極から程よい距離にあり、気候が良く、農産物を作る土地、豊富な天然資源、豊かな自然、世界中から人が集まる多様な文化。恵まれた条件が重なり世界トップになれたともいえます。

逆に朝鮮半島は不運な地形にあります。大国に近く、周りに大きな自然による障害物がなく、豊かな資源・農産物・港や貴重なものがある土地。何度も外国の戦場になり、大国の支配下にあった歴史を辿ってきました。周りの国が欲しがるものがありつつ、攻められやすい地形だということです。

宇宙から見た地球儀

地球上でもっとも歪んでいる大陸は南極大陸です。大きな陸地に分厚い氷が乗っかった、アメリカやヨーロッパよりも大きな大陸。どの国の領土でもないが天然資源が多く、南極条約によって軍隊を置くことも禁じられています。

もっと視点を俯瞰して宇宙開発がすすむ現代。北極や南極など基本的に人が住めない土地や海を含めて、地球全体をみる機会が増えました。将来、宇宙空間を巡って縄張り争いが起きることだって考えられるかもしれません。

書評

ストーリー仕立てで地政学を学べるので、地政学の入門書に最適な本です。

私たちは学校の社会の授業で地理や歴史については学んできました。そして政治は公民という科目で勉強してきましたね。個人的には社会の授業は基本的に暗記が多くてあまり好きになれませんでした。

しかし地政学という観点を得ると、過去に学んだ地理や歴史のポイントが線となって繋がるところが生まれるのです。

国際政治に関するニュースを見ていても、地政学的な視点があるかどうかで捉え方も変わってくるでしょう。

タイトルには「13歳からの~」とありますが、本書は確実に大人が読んでも役立ち、楽しめる一冊だと思います。

13歳からの地政学

¥1,650

13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海
田中孝幸

読者が選ぶビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」受賞!20万部突破の地政学入門書。

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【スターティングストレングス】ウェイトトレーニングの本として最高のベストセラー邦訳版

ウェイトトレーニングに関する書籍として出版業界市場最大のベストセラーとなった本書を、4年かけて古い内容や不完全なものを更新した第3版。

Mark Rippetoe

世界でもっとも有名なストレングスコーチの一人。10年間パワーリフティング選手として活動し、パワーリフター、アスリート、さらに何千もの筋力や競技力向上に興味を持つ人たちを指導してきた。八百健吾(監訳)

概要

本書は5種目の主なバーベル種目に対象を限定し、それぞれを何十ページにわたって詳細に説明しています。バーベル種目は多くの筋群の動員、可動域、高重量を持ち上げるポテンシャルが高い運動です。一般的な多種目エクササイズより効率的な内容に絞り込んでいます。

やり方だけでなく、バイオメカニクスや解剖学の観点からの「なぜそのやり方か」までの解説を含んでいるので説得力が違います。

鍛える理由

運動がパフォーマンスにどういった効果があるかを考えるよりも、身体は運動という刺激があることで本来の状態に戻ることができるのが本書のスタンス。

なんらかの問題が起きたときにそれを正すために運動をするのではなく、問題がなくてもやらなくてはいけないもの。運動をしなければ必ず問題が生じます。

好むと好まざると関わらず、体力は生きていく上で最も重要なものです。

なぜバーベルか?

そもそもマシンの始まりはアーサー・ジョーンズが、ノーチラスを開発したところから。当初、身体をハードに鍛えるにはバーベルの扱いを覚えるしかなかったため、革命的でビジネス的にも大成功しました。ジムにとってもスタッフ教育のコストが大幅に削減されます。

しかしマシンサーキットはとても効率が悪く、ある人がバーベルに切り替えてから1週間で、12台のマシンで鍛えた何ケ月もの期間全体で増えた体重以上の増加もあったという話もあるほどです。

人体は全体がひとつのシステムとして機能するものであり、マシンによって部位ごとに分割して鍛えるのは道理にかなっていません。なぜならマシントレーニングで得られた筋肉を、日常動作で同様の使い方をすることがないからです。筋力を鍛える動作パターンは、通常時の動作パターンと同じでないとなりません。

バーベルによって多関節の可動域全体で正しく行うと、人体の骨格や筋肉の構造が荷重下でどう働くかが表れます。つまり身体のデザインに沿った自然なかたちでウェイトを動かすことで、最適な形で効果が出ます。

さらにバーベルは経済的に取り入れやすいというメリットもあります。

しかし唯一の問題は、圧倒的大多数の人が正しいやり方を知らないということ。

プログラム作り

人間の成長には適応の根幹があり、適応力を越えたストレスを突破することで初めて次の段階に成長できます。

トレーニングにおいても、挙上重量は行う頻度に対して適応するものではなく、バーベルを挙げることからくるストレスに対して適応します。重量、レップ数、挙上速度、セット間休憩などのあらゆる変則要素がある中で。

また、ストレスは回復できるものに調整しなければならず、段階的にストレスを与えて適応を蓄積させる手順を踏んでいかねばなりません。

個人の遺伝的限界のグラフによると24ケ月までの初心者の成長はすさまじく、トレーニングもシンプルなもので十分。そこから48ケ月までの中級者、それ以降の上級者となるとトレーニングはより複雑になり筋力パフォーマンスの伸びもゆるやかになります。

レベル別トレーニングの考え方

初心者が最も高い効果を求めるなら「負荷となる要素を毎回少しずつ高め、その負荷の高まりに対して適応が起こる限り続ける」

中級者は回復が間に合わなくなり、その回復を念頭においたプログラムを取り入れる段階にあり、最大筋力を発揮するトレーニングを頻繁に取り入れることでより速く成長できます。

上級者になると遺伝的限界に近いところでトレーニングを行うので、オーバートレーニングにならないように注意して強度とボリュームを調整する必要があります。

プログラムの組み方

ウォームアップセットを4段階1~2セットで、最初はシャフトのみから始めます。最後のウォームアップはメインセットの85%~90%程度を1~2レップ1セットで十分。

メインセットは5レップ3セット程度で繰り返し伸ばしていくイメージ。

※1RMと20RMではその適応が全く異なることを理解した上で、1セット5レップの5RMが初心者の効果の高い妥協点になる。

重量の増やし幅はメインセットの重量を伸ばすのを基準、正しいフォームで週3回トレーニングを行う男性を前提に、最初の2~3週は5㎏ずつ、そのあと数か月は2.5㎏ずつ伸びると順調です。

栄養と体重

十分な運動ストレスに加えて回復を促す食生活が結果を生み出します。この人為的な急成長は高齢になるほど縮小していってしまうので若い時ほど成長の見込みがあります。

運動して、食べて、休むのが最大限の前提。

若い細身の人がちゃんと食べながら正しいバーベルトレーニングを実践すると、2週間で5~7.5kg増量もあり得るでしょう。

「ちゃんと食べる」とは、1日4食、肉と卵をたんぱく源とし、野菜と果物をたくさん摂り、牛乳をたくさん飲むこと。全体の食事量は3500kcal~6000kcalで、体重1㎏あたり2g以上のたんぱく質を摂取します。

手っ取り早い増量法は牛乳を1日1ガロン(3.78リットル)飲むこと。手に入りやすく、調理不要で、急成長する哺乳類にとって必要な要素が揃っているから。

書評

Youtubeで筋トレに関する情報を非常に理論的に解説するかたがいます。そのかたが参考にしていたのが本書(英語原版)だったので、日本語版もあるのならと買ってみました。

まずこの本の専門性の高さから値段が高い…。5,800円(税抜)なので、大学の参考書としても使われるレベルですね。そのぶん内容が充実していて、バーベル種目の正しい知識を入れるならこの本一択だと思います。

筋トレ本は数多くありますが、1つの種目を見開き1ページ程度の浅い内容ですませる本が多いこと。サイドレイズやレッグエクステンションのような、単関節運動なら簡単に理解できるかもしれませんが、スクワットやデッドリフトのように複雑な多関節運動で且つフリーウェイトについては、見開き1ページ程度の短い説明では適切なやり方は身につきません。むしろ怪我などのリスクにもつながります。

バーベル5種目に加えて、有効な補助種目というのも記載されていますが、基本的にはバーベルメインの解説本となっています。

全体的に専門性の高さと、一つの内容に対する深さからトレーナー向けの本だと感じます。ある程度トレーニングの知識と経験がある人が、さらに深い理解を得るのにも最適です。

現在はYoutubeなど分かりやすい動画教材が世の中にいくらでもあるので、初心者はそういったものから実践して段階的に知識を磨いていくのがよさそうです。

原本が海外なので、例えば栄養に関する内容が3500~6000kcalなどとてつもないカロリーになってましたね。日本と欧米で基準が異なる点もあるので、その点も踏まえて読み進めていいく必要がありそうです。

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【孤独の愉しみ方】自然と孤独から多くの人生の原則を見出したソローの叡智

コロナ渦において「孤独」や「おひとり様」という言葉がメディアでもち上げられた時がありました。物理的に他者と距離をおくので、必然的に一人で過ごす機会が増えます。

日本では昔から「和」や「協調」など集団的な取り組みや形成に美徳を感じるところがあり、孤独という言葉が少々ネガティブに捉えられがちだと思います。それが皮肉にもコロナによって、孤独や1人での活動を肯定的に捉えていく機運が一気に高まったようです。

図書館に行ったとき、そんな世間のあおりを受けて孤独やおひとり様ライフの特集エリアが設置されていました。その時に手に取った一冊が非常に良かったのでご紹介します。

ヘンリー・デヴィッド・ソロー

インドの独立運動やアメリカの公民権運動などに影響を与えた作家。ウォールデン湖畔の森で2年間の自給自足生活を送った記録「ウォールデン森の生活」が大きく評価されている。

概要

本書は「孤独」をテーマにした5章立ての名言集となっており、名言に続いて解説や出典となる本の文脈が記載されているアンソロジー形式です。

  1. 孤独が一番の贅沢
  2. 簡素に生きる大切さ
  3. 心を豊かにする働き方
  4. 持たない喜び
  5. 自然の教え

孤独を愉しむ方法、人間らしく生きる方法、シンプルに暮らす大切さについて、150年前、アメリカの森の中の湖の畔で、小屋を建てて自給自足の生活をしながら遺した思索家の言葉を、わかりやすくいまに生きる人に向けて編集しました。

ガンジー、キング牧師を動かし、環境保護運動のバイブルともなり、世界を変革した言葉は「森の生活者」の孤独な時間から生まれました。心豊かに生きる秘訣がこの本には書かれています。

イースト・プレス 内容紹介

本書の中から個人的に特に気に入ってる内容を抜粋して紹介します。

「みんな」という言葉にまどわされてはならない。「みんな」はどこにも存在しないし、「みんな」は決して何もしてくれない。

多数による同調圧力をもってして相手を丸め込んだり、「みんな」という主語の大きい曖昧な対象に責任をおしつけたり、そうやって本来の自分を喪っていってはいけません。

退屈するのはその中に野生がないからだ。

文学の中で人の心を惹きつけるのは野性的なものだけである。つまらなさとは飼いならされていることの別名だ。

『ハムレット』には洗練されていない自由奔放な思考があって、言葉にできない美しさを含んでいます。 動物に例えるとわかりやすく、同じ動物でも飼いならされた動物園で眺めるのと、自然豊かな山の中で発見するのでは感動が大きく異なります。

生活費を稼ぐために、起きている時間のほとんどを労働に費やすのは、明らかに失敗だ。

ほとんどの人のように午前も午後も自分の時間を社会に売り渡してしまったら、人生は生きる価値のないものになってしまいます。目先の利益のために生得権を売り渡さないことがソローの信条。

人間は自分がつくった道具の道具になってしまった。

道具や手段が進歩しても達成したい目的は今も昔もずっと変わらないものが多々あるでしょう。

近代的な発展を肯定するばかりでは別の何かを失ってしまうかもしれません。

僕たちが住むこの地球も、宇宙の中ではほんの小さな点にすぎない。

ソローは他人からよく「森で暮らすのは寂しいだろう」といわれていました。

しかし視座をあげれば、この地球だって広大な宇宙から見ればほんの小さな点にすぎない寂しいものです。

書評

名言集なのでパラパラと気軽に読んでいけるし、気に入った部分には付箋をつけて何度も繰り返し読んでいます。

心の賛沢は、一人の時間から

孤独には、力がある。

イースト・プレス(コピーライト)

孤独が決して悪いものではないことや、むしろ人間が本質的に豊かな精神性を育むためには孤独が必要であることが分かります。

自分が一人であることに寂しさを感じているのであれば、それは孤独を味方にして自分を成長させるチャンスでもあるのです。

ちなみにこの本の装丁のつくりがよくて、内容も何度も読み返したくなるような本だったので、図書館で返却した後に自分で購入しました。さらにkindle版も購入したくらいお気に入りの一冊です。

孤独の愉しみ方

¥1,430

孤独の愉しみ方 森の生活者ソローの叡智
ヘンリー・ディヴィッド・ソロー
服部千佳子(訳)

孤独を愉しむ方法、人間らしく生きる方法、シンプルに暮らす大切さについて、150年前、アメリカの森の中の湖の畔で、小屋を建てて自給自足の生活をしながら遺した思索家の言葉を、わかりやすくいまに生きる人に向けて編集しました。

ソロー「森の生活」を漫画で読む

シンプルな生き方を提唱した名著の誉れ高い『森の生活』

実際に読むと長大で難解なこの作品を、選び抜いたソローの文章とジョン・ポーサリーノによるシンプルな描線で漫画にしたのが本書。

後半には引用されたソローの文章を訳出し、その言葉がどんな文脈で書かれたのかを解説しています。

ソローってどんな人?森の生活とは?という人にはこちらの漫画の内容が易しいのでおすすめです。

この世界で生きることは苦行ではなく、遊びなのだ。シンプルに賢く生きてさえいれば。

ソロー

ソローの遍歴

ハーバード大学卒業からパブリックスクール辞職の理由、執筆業で生計を立てる動機、森での生活、政府への意思表明、森での生活実験終了後の講演活動までの遍歴が記されています。

ソローの1845年3月~1847年9月までの日記は、アメリカ文学を代表する「森の生活」として出版され、これに触発されて多くの国立公園が生まれ、生態系保存活動が促されました。

また、エッセイ「市民としての反抗」こちらも20世紀のイギリス統治に対するインドの独立運動や、アメリカの公民権運動などに影響を与えています。

ウォルデン湖での生活

四季を感じ、動物の足跡を追い、ハンノキやブドウなど自生する植物、ウォルデン湖の情景を眺める生活。2エーカー半の土地にインゲン豆、ジャガイモ、トウモロコシ、エンドウ豆、カブなどを植えていました。

農作業して、1~2時間休息して、昼食をとり、泉のそばで本を読む。

そうやって自然と一体になっていく中で気がついたのは、すべては神秘的で果てしなく、自然を味わい尽くすことはできないということ。

人は容易いルートばかり歩くから、何度も行き来するうちに踏みならされ、伝統や文化という轍が刻まれます。だから森へ行くのはそんな流れへの逆行ともいえるのでしょう。

書評

漫画とありますが、実際にはイラストをぽつぽつと単純なコマでつなぎ合わたような、シンプルな線の絵本調の本です。思考をセリフ化して、コマとアンニュイな無言の表情だけで文脈を補完させる特徴的な漫画です。それがソローらしさを引き出してるようで、シンプルな構図だけどじっくりと時間をかけて読んでしまいました。

内容としてはソローを何も知らない人からすると、なんとも虚無的な無感動なストーリーに思えるかもしれません。しかしそれが現実ですし、そこに本来の生きる本質を見出す価値があります。

ソローは隠者ではなく、森の生活でも多くの客人を招き入れていましたし、自分が村に足を運ぶことも度々ありました。彼の見立てでは、子供や女性は森の中が好きでしたが、商売人や農夫に限って仕事と孤独の話ばかり気にしてくるそうです。社会生活の中で人々の大事な感性が失われていくことを嘆いているようですね。

後半には抜粋解説文もあるので、漫画で抽象的に表現してる部分はそちらで追って理解するといいでしょう。ジョン・ポーサリーノが、いかに言葉少なに「森の生活」を捉え、ウォルデン湖の静寂やソローの静謐な思考を再現しているかが分かってくると思います。

ソロー「森の生活」を漫画で読む

¥1,760

シンプルに暮らそう!ソロー『森の生活』を漫画で読む
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー
ジョン・ポーサリーノ(絵/ 編集),
金原瑞人(訳)

人生の針路に迷ったとき、この本を開いてみてください。シンプルな絵の中に珠玉の言葉が散りばめられています。

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【 君たちはどう生きるか】より良き大人になるための不朽の児童文学

宮崎駿の映画のタイトルにもなった「君たちはどう生きるか」

吉野源三郎

1899年東京生まれ。東京帝国大学文学部哲学科卒。三省堂編集部で『大英和辞典』の編集にあたる。1935年、山本有三の好意で新潮社「日本少国民文庫」の編集に参画。これは、軍国主義の時勢に抗してヒューマニズムを子どもたちに伝えることを意図された全16巻の双書で、吉野源三郎は編集主任となる。『君たちはどう生きるか』もその1冊として1937年刊行。1937年、明治大学で教鞭を執る傍ら、岩波茂雄からの誘いで、岩波書店入店。1938年には、日中戦争下における批判的精神の欠如を戒め、現代的教養を広めることを目的とし、岩波新書の創刊を主導。1950年には岩波少年文庫の創刊にも携わる。

あらすじ

中学2年生のコペル君、亡くなった父は銀行の重役でそこそこの家柄。中学校の友人は実業家、大学教授、医者などの家系で、比較的上流の未来を期待される子供たちへ向けた話です。

学校や日常生活を通して、ものの見方、社会の構造、関係性を捉え、すぐれた洞察力と豊かな道徳的感性から発見を広げていきます。

そんなコペル君の発見に、叔父からのアンサーとしてノート形式で語られていきます。


コペル君とおじさんは銀座のデパートの屋上から人々を見下ろしていました。その時コペル君が、人間がこの世界を構成する分子の一つ一つであると例えたことにおじさんは感心します。

人はみんなが集まって世の中を作っているし、みんな世の中の波に動かされて生きています。自分自身もその分子の一つにすぎない。人間が自分を中心にものを見たり考える性質というのはとても根深く頑固です。人を一分子に見立てて客観的に世界を観察できたのは大きな発見で、とても成熟した考え方でした。

コペル君、北見君、水谷君の仲良し3人は、クラスでいじめられている浦川君を助けます。浦川君は実家が貧しい豆腐家で、いつも弁当のおかずが油揚げばかりだから、それをいじめっ子にからかわれていました。

油揚げ事件を解決した北見君の正義感、それに感動したコペル君の正直な心のありようを大切にしなさいと、おじさんは手紙で伝えました。

季節がめぐって雪の日に、浦川君も含めた仲良しグループで雪合戦をしていました。そこで北見君が上級生の雪だるまを壊す粗相をしてしまいます。

上級生から目をつけられていた北見君は、事前にみんなで何かあったら助け合う約束をしていました。しかしコペル君は北見君たちが上級生にからまれている時、怖気づいて手の雪玉を後ろ手に隠して無関係を装い裏切ってしまいます。

友達と深い溝ができてしまったコペル君は、後悔のあまり熱を出して学校を休みます。

おじさんはそんな情けないコペル君を見て、「友達同士の硬い約束を破ってしまったのに、どうして男らしく自分のしたことに責任を負おうとしないんだ」と一括。

さんざん悩んだあげくに手紙で誠心誠意の謝罪をしました。

「心が感じる痛みは体が感じる痛みと同様の意味を持つ。お腹痛いとか怪我をしたとか、体の故障によって自身が正常の体でないことを知る。苦痛がなければ気づかずに死んでしまうこともある。同様に心に感じる苦しみや辛さは、人間が人間として正常な状態にいないことから生じて、そのことを知らせてくれている。心が苦しいから、人間が本来どうあるべきかということを心に捉えることができる」

自分を責め立てるほど苦しみを感じているのは、正しい道に向かおうとしている証なんだ。

書評

コペル君の精神的な成長、友達の貧困、人間性の追求といった『より良く生きる』ための指南が凝縮された教養教育本でした。

漫画版だというのに文章量はかなり多いけど、コマ割りが大きくてさくさくと読みやすさはあります。

小説版も読んでいますが、おじさんのノートの内容はそのまま小説も漫画も同一です。ストーリーは漫画でサラッと進めて、大事なことが書かれたおじさんの手紙は忠実に文章として載せています。

世間には他人の眼に立派に見えるようにとふるまっている人がずいぶんいて、そういう人は自分が人の眼にどう映るかを一番気にするようになって本当の自分、ありのままの自分がどんなものかということをついお留守にしてしまうものだ。立派そうに見える人ではなく、良いことは良いこと、悪いことは悪いことだと一つ一つ判断して本当の意味で立派な人になってほしい。

おじさんの手紙

どう生きるべきか、ではなく、コペル君のあらゆる発見を起点にした社会的な認識のもとで、『どう生きるか』というあくまでも提示になっています。このタイトルが優れているところですね。

そして「君たちはどう生きるか」この言葉は最後にコペル君から発せられます。

現代では上から目線のタイトルが鼻につくとも言われてしまうようですが、それも当然の背景があったりします。本書に登場する子供たちは、将来日本を背負っていく上流家庭の限られた男子たちに向けた内容だからです。

人々を引っ張っていくリーダーたるもの、人として良くあれというメッセージなのでしょうが、言われていることは上流階級に限らず万人が目指すべき普遍的な道徳です。だからこそ80年も読み継がれる古典となっているのでしょう。

漫画 君たちはどう生きるか

¥1,430

漫画 君たちはどう生きるか
吉野源三郎 (著)
羽賀翔一 (著)

人間としてあるべき姿を求め続けるコペル君とおじさんの物語。出版後80年経った今も輝き続ける歴史的名著が、初のマンガ化!

小説 君たちはどう生きるか

小説版も読みましたが、内容としては漫画版とほぼ同じ。ストーリーも基本的に同じ流れですし、重要なおじさんの手紙はそっくりそのまま同一の内容です。

相違点は以下、

「水仙の芽とガンダーラの仏像」「春の朝」が漫画ではカットされています。水谷君の家で遊び、彼の姉が登場するくだりがカットされています。

小説だからこその新しい発見や気づきというのもほぼなかったので、基本的には漫画版で読むほうがおすすめかなと思っています。

また、当時の出版背景には満州事変~日中戦争に発展する時代にあり、言論や出版の自由が制限されていたことも踏まえておくべきです。労働運動や社会運動は激しく弾圧され、もちろんこのような本も出版が容易ではありません。

それでもこの時世の影響から少年少女を守り、人生をいかに生きるかという倫理だけでなく、社会科学的認識を改めて見つめ直す本として送り出されました。

君たちはどう生きるか

¥1,067

君たちはどう生きるか
吉野源三郎

人生いかに生くべきか。子どもから大人まで時代をこえて読み継がれる不朽の名作。