【予告犯】他人の願いの為にどこまで本気になれるか試されるクライムサスペンス
著者 | 出版 |
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筒井哲也 | ヤングジャンプコミックス改 |
あらすじ
動画サイトにて新聞紙を頭に被った男が犯行予告をアップロードした。後日その犯行は実行されており、その後も同様の新聞紙男による犯行予告が繰り返された。
警視庁サイバー犯罪対策課は新聞紙男の正体や動機を探るべく本格的に捜査を開始。
新聞紙男が犯行を行う対象はいつも何かしらの悪人への制裁という形をとっており、ネット上では新聞紙男を支持する層が増えてきた。新聞紙男の犯行予告と悪人への制裁は社会現象へと発展し、カリスマ的存在へとなっていく。
某漫画喫茶の一室から世界を変える予告をした新聞男。
最初のターゲットは集団食中毒事件を起こした食品加工業者の責任者。重傷者を多数出しながら法律の不備のせいだと開き直る会見に制裁を加えると宣言。
犯行声明後、食品加工会社にて火災発生。
同様の犯行を繰り返し世間の注目が集まってきたタイミング。次の予告は某ネットサービス企業に勤める会社員が、採用面接中SNSにて求職者に対する差別的な晒上げ実況を行っていたことを糾弾。求職者は32歳で数年間の空白期間があり、放浪したのかニートだったのかわからないが、何かの事情で社会のレールから外れた男が社会復帰をしようと真面目に頑張っている人間を誰が笑いものにする資格があるのかと怒りを発露。
社会的弱者などの代弁者として正義悪を実行した新聞男は着実に世論を味方につけていった。一方でサイバー犯罪対策課は新聞男の行方を掴めずに捜査に苦戦していた。
標的は拡大し環境保護団体や衆議院議員などを狙い、制裁の内容も次第にエスカレートしていった。警察も新聞男のしっぽを掴みはじめ、犯行予告をしている漫画喫茶をつきとめられるも、新聞男の支持者であった店員の計らいにより逃亡する。
新聞男がなぜ社会的弱者の代弁者たる立場で犯行を続けるのか、新聞紙に隠されたその正体、連続犯行の最終的にいきつく目的を明らかにする過去の事件とは――。
感想・書評
3巻完結と短いながらも非常に綺麗に完結するよくまとまった漫画でした。
新聞紙男の正体、動機、目的、すべてが明らかになった上、最後まで警察も世論も新聞紙男の策の上に転がされます。
犯罪とはいえ世の中の悪人に制裁を与えてだんだんと大衆に支持されていく復讐劇のような構成もすっきりしていいですね。警察から逃れるアリバイ対策もしっかりしており、もはや世間ではダークヒーローのようなカリスマ性を持っていきます。
特に前半は新聞紙男の正体が読者にもわからないうち、どこまでが彼の計算なのか底が見えない筋書きも読んでいて面白いです。そして後半の新聞紙男が生まれる経緯に至った壮絶な過去、犯罪を共有して築き上げた歪んだ仲間たち。
新聞男の根底には社会のすべての搾取される側の人間を救いたい、彼らにも自尊心が必要不可欠でそれがないのは生きている状況とは言えないと断言します。
自尊心を奪うやつが許せない。
それは街ですれ違う視線、給湯室から聞こえる会話、給料明細のよく分からない項目、偉そうな態度で職質をかける警察官など、社会のどこにでも隠れている。
生きていく中で、社会へのアンチテーゼを表出できずにくすぶっている、そんな人の心がちょっとすっきりする漫画でした。