【13歳からの地政学】地政学の入門に最適な大人にも読んでほしい
著者 | 出版 |
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田中孝幸(国際政治記者) | 東洋経済新報社:2022/02/25 |
ビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」受賞。
20万部以上売れている地政学関連で最も注目の入門書。
あらすじ
アンティークショップの貿易商である「カイゾク」が、7日間の講義形式で地政学について語る入門書。
物も情報も海を通る
貿易の9割が海を通る現実的な理由、海底ケーブルは情報をおさえているようなもの。さらに海の深さにも着目すると日本の海水体積は世界トップクラスである。
地政学においてまずは『海』の重要性をおさえなければならない。
日本のそばに潜む海底核ミサイル
海の話につながるが、核ミサイルは3つの条件で最大効力を発揮する。
- 原子力潜水艦
- ミサイルの発射力
- 潜水艦を隠せる海
これらの条件を揃えているのが現在はアメリカとロシア。そして中国が南シナ海を欲しがる理由が、この海底核ミサイルをおさえられるからだ。
核ミサイルが外国への牽制力になるように、国の位置が外交を決めているのが地政学的
大きな国の苦しい事情
主にユーラシア大陸のロシア、中国、ふたつの大国。どちらも陸続きで多くの国と接しているのが共通する。
隣接する国同士は関係性がデリケートになる。昔と今で地図を見比べてみると、国境の形が違うのは領土紛争があった証だ。
また、国内での少数民族による独立運動など、国外へ出ていこうとする遠心力と現行の国が引き留めようとする力の二つが常に動いている。こういった治安維持に大金を必要とするのも大陸国の特徴。管理が難しく領土を守るのに困難を伴う。
国はどう生き延び消えていくのか
戦争で負けるということは、往々にして国がなくなることを意味する。
自国のお金は通用しなくなり、自国の言葉で喋れなくなる。
ヨーロッパは第一次世界大戦前と比較して、多くの小国に分断され国の行き先が動かされた。もし日本に置き換えるなら関東と関西が分断されそれぞれ外国となり、互いの国で関東弁と関西弁が禁止されるようなものだ。そうして分断された国同士では、対象国を憎むように教育されることも珍しくない。
絶対に豊かにならない国々
なぜアフリカにお金がないのか。
気候や食糧問題ばかり取り沙汰されるが、実は天然資源が豊富で、サハラ砂漠は大陸の1/3以下で緑や水も豊か。住みやすい土地も多い。
その理由は端的にいって政治家が海外に金を流してるからだ。アフリカが大国の植民地支配の歴史にあり、ヨーロッパやアメリカがそのお金を吸い上げている。そんな構造は現代でも変わらず、アフリカの上層と外国がタッグを組んでいる。
この根本を解決しない限りアフリカはいつまで経っても貧しいまま。
このようなリーダーが多く軍事政権や独裁政権が多いのは、国境を定規で引いたヨーロッパの国々の支配にあったからである。各国の事情を知らずに分断された国境では、民族や部族間で遠心力が働き国としてまとまることはなかった。それ故に手っ取り早くまとめるには力ずくの強引なリーダーしかいない。
悪い歴史を継承しながら、先進国で誰もやりたがらない辛い仕事を押し付けたいために、常にアフリカを弱らせている節もあるだろう。
フェアトレードのチョコレートはカカオ農家と公正な取引で買っていることを示すが、逆に言えばほかのチョコは押しなべてフェアな取引ではないことを意味する。カカオをアフリカで加工して輸出する方が絶対にいいのに、誰も技術や機械、お金、教育など国のためにお金を使わない。
アフリカに貧しいままの悪循環を維持させており、さしずめ現代資本主義の奴隷制度のようなもの。
安くて良い物の危うさは、このように誰かの犠牲に成り立っていることがある。安い理由には技術を高めて効率化して安くするか、人を安く雇って使う、この2パターンしかない。
地形で決まる運
アメリカは世界一恵まれた土地だ。2つの大海に接し、赤道や北極から程よい距離にあり気候が良く、農産物を作る土地、豊富な天然資源、豊かな自然、世界中から人が集まる多様な文化。恵まれた条件が重なり世界トップになれたともいえる。
逆に朝鮮半島は不運な地形にある。大国に近く、周りに大きな自然による障害物がなく、豊かな資源・農産物・港や貴重なものがある土地。何度も外国の戦場になり、大国の支配下にあった歴史を辿ってきた。周りの国が欲しがるものがありつつ、攻められやすい地形だということ。
宇宙から見た地球儀
地球上でもっとも歪んでいる大陸は南極大陸。大きな陸地に分厚い氷が乗っかった、アメリカやヨーロッパよりも大きな大陸だ。どの国の領土でもないが天然資源が多く、南極条約によって軍隊を置くことも禁じられている。
もっと視点を俯瞰して宇宙開発がすすむ現代。北極や南極など基本的に人が住めない土地や海を含めて、地球全体をみる機会が増えた。将来、宇宙空間を巡って縄張り争いが起きることだって考えられるかもしれない。
感想・書評
ストーリー仕立てで地政学を学べるので、地政学の入門書に最適な本です。
私たちは学校の社会の授業で地理や歴史については学んできました。そして政治などは公民という科目で勉強してきましたね。個人的には社会の授業は基本的に暗記が多くてあまり好きになれませんでした。
しかし地政学という観点を得ると、過去に学んだ地理や歴史のポイントが線となって繋がるところが生まれるのです。
国際政治に関するニュースを見ていても、地政学的な視点があるかどうかで捉え方も変わってくるでしょう。
タイトルには「13歳からの~」とありますが、本書は確実に大人が読んでも役立ち、楽しめる一冊だと思います。