2024-09-22

【道草を食む】美味しい雑草の生存戦略や不思議な生態、食べる以外の活用法

著者出版
MichikusaCCCメディアハウス:2023/10/20

薬草料理マイスター・自然観察指導員の著者が、ポッドキャスト自然カテゴリ部門にて1位を獲得した不定期配信ラジオ「道草を食む」の書籍化。

なんとも可愛くて、賢くて、意外とおいしい
道草の世界へようこそ――

Michikusa

概要

春夏秋冬の四季を通して楽しめる雑草21種を、その食べ方から生態や文化などの観点からスポットを当てる雑草マニアの本。植物に通じていなくても楽しく読める内容となっている。

ポッドキャストで人気番組となり書籍発売に至った稀有な例。私も楽しみに聞いており、中でも特に身近で分かりやすいお気に入りのエピソードがヨモギの回だった。

ヨモギの新芽は本来春だが、人里近い場所で何度も刈り込まれて再び新芽を出すものは通年入手可能。Michikusaさんはド根性ヨモギと呼んでいる。通常のヨモギより香りが強く単体では使いにくいが、強烈な香りを乳成分でマイルドにするポタージュがおすすめだ。

以下、本書で紹介された雑草を四季の中から各1種類ずつ紹介する。

【春】タンポポ 蒲公英 Taraxacum

キク科タンポポ属の多年草。セイヨウタンポポは3~9月で、在来種は種類によりさまざま。花を鼓に見立て、タン、ポン、ポンという音が由来。

亜種や変種を含めて20種以上の在来種で、都市部では主に外来種のセイヨウタンポポか在来種との雑種が多い。その種類はタンポポの図鑑があるほど。

近年ではタンポポの冠毛が遠くへ飛ぶメカニズムを応用した極小型ドローンなどの技術も期待されている。

食材としても優秀で海外では野菜やハーブとしても食卓に並ぶ。フランスでは苦味をおさえる遮光栽培もしている。つまり野性のタンポポは苦味があり、それが逆にほろ苦い美味しさでもある。葉はペペロンチーノ、根はきんぴらに、花は彩やサラダなど。果物とあわせたタンポポジャムもいい。

【夏】ツユクサ 露草 Commelina communis

やや湿った道端や畑などで見られるツユクサ科の1年草。ほぼ日本全土に分布して6~9月が収穫適期。彩鮮やかな天然の着色料ともいう。

朝早くに咲いて昼頃にはしぼんでしまう。一度きりの開花でその日のうちにしぼんでしまう「一日花」と呼ぶ。しかし繁殖力はすさまじく、一度根をおろすと、刈り取ってもいくらでも再生するので田畑や庭の整備には手を焼く。

花の色素は非常に水に溶けやすく、日本の伝統工芸、友禅染の製作にもいかされている。手描き友禅の下書きの際に青花紙という絵の具の原料に用いる。現在ではかなり限られた技術文化となった。

雑草の中でくせが少なく見た目も鮮やかなので食事に取り入れるのもいい。花はサラダの彩りや、すりつぶしてゼリーやドリンクの着色に。茎葉はてっぺんのやわらかい若葉をサッと湯がいておひたしに。くせがなく、少しとろみがあり、しゃきっとした歯ごたえがある。

グリーンの色持ちが良いので、加熱したり乾燥させても褪色しにくい利点がある。なので細かく刻んだものを焼き菓子やポタージュに活用するのもおすすめ。ツユクサパンケーキや、ツユクサの琥珀糖など。

【秋】ススキ 薄 Miscantbus sinensis

日当たりの良い場所に分布するイネ科ススキ属の多年草で、開花期は8~10月で収穫適期は4月~11月。

秋の七草になるほどポピュラーな雑草。オギなどススキとよく似た植物もあるので注意。

ススキの葉は硬く、ふちにガラス質の細かいトゲが並んでいるので、素手で安易に引き抜こうとしないように。6000万年前はこのケイ酸から構成される小さなトゲは、天敵である多くの草食動物を絶滅に追いやったとも考えられている。動物が進化してイネ科に対応したのが反芻という機能。牛やヤギなどに備わっており、繊維質の植物も消化できるようになった。

我々は消化できないので、お茶にするのがおすすめ。穀物茶のような香ばしさとほのかな甘みに、すっきりとした味わいがある。

【冬】スイバ 酸葉 Rumex acetosa

田畑周辺や河川敷など人里近く開けた土地で見かける。

その名の通りかじると酸っぱい味がする。ヨーロッパ圏ではソレルやオゼイユという呼び名で野菜やハーブとして栽培される食材。

越冬植物によくみられる特徴の、葉を地面に放射状に這って広げたロゼットになっている。風雪や乾燥から身を守りながら太陽光を効率よく受け取れる生存戦略だ。地面に対して面積を多く占有することで、あとから芽吹く植物に対してアドバンテージを保っている。

通常時は明るい緑色をしているが、寒い季節は部分的か全体が真っ赤に紅葉する個体がある。

スイバの酸味を生かした梅肉風は、この赤い葉を収穫したほうがそれらしくなるのでおすすめ。

感想・書評

七草をはじめ、草餅の原料となるヨモギやつくしの佃煮など、雑草は意外にも身近で、日の目を見ることのないものも活用の仕方でとても暮らしが豊かになります。そんな魅力を伝えたいという思いがこもった一冊。

雑草は山菜取りや園芸よりも手軽で、フィールドワーク的な楽しみもあるのがメリット。食べるだけでなく薬効、染料など、先人の知恵がつまった活用まであります。

本書の中でこれだけ覚えておけば役に立ちそうだなという一文。『手で抵抗なく折り取れる箇所』で収穫することが雑草や山菜を収穫するうえでも大切なポイント、とのこと。これに限らない植物もあるかもしれませんが、多くの食用草花に通用する知識は覚えておいて損がありません。

雑草紹介のほかにコラムが10本掲載、丁寧な雑草レシピ、落ち着いたマットな雰囲気の素敵な写真など、役立つ知識や見て楽しめる要素が満載です。

「花外蜜腺」「バイオミメティクス」「アレロパシー」といった専門用語も時々ありますが、わかりやすい説明も含んでいるので問題なし。

注意喚起として書かれていますが、雑草採取の際はモラルとマナーを守って、毒草や外来生物の扱いに気を付けて行うようにしていきましょう。

ちなみに本書の中で個人的に一番食べてみたいのが「スベリヒユ」でした。地域によっては園芸種として栽培されているようです。肉厚でシャキッとしていて、ぬめりがあり、ほのかな酸味もあって、ダントツで食味の良い雑草だそうです。その上、植物性オメガ3脂肪酸のα-リノレン酸が豊富であったり、スーパーフードと呼ばれるほどポテンシャルのある植物なんですね。

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