ハツカネズミと人間

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ハツカネズミと人間
ジョン・スタインベック
大浦暁生(訳)

『怒りの葡萄』でピューリッツァー賞を受賞した著者による中編。木曜日の夕方から日曜日の夕方まで、河畔と農場での会話と情景を切り取った戯曲的小説。

説明

一軒の小さな家と農場を持ち、土地のくれるいちばんいいものを食い、ウサギを飼って静かに暮らす――。からだも知恵も対照的なのっぽのレニーとちびのジョージ。渡り鳥のような二人の労働者の、ささやかな夢。カリフォルニアの農場を転々として働く男たちの友情、たくましい生命力、そして苛酷な現実と悲劇を、温かいヒューマニズムの眼差しで描いたスタインベックの永遠の名作。

本文より
二人は砂の上に寝床を作った。たき火のほのおが弱まるにつれ、あかりの範囲もせばまってゆく。突き出た枝が見えなくなり、弱い薄あかりが幹のあたりを照らしているだけだ。やみの中からレニーが呼ぶ。「ジョージ――おめえ寝たか」
「いや。なんの用だ」
「いろんな色のウサギを飼おうね、ジョージ」
「ああ、飼おうよ」ジョージはねむそうに答えた。「赤や青や緑のウサギをな、レニー。何百万と飼おう」