2024-05-01

【JKさんちのサルトルさん】哲学者サルトルが犬になって現代に転生したコメディ漫画

著者出版
大間九朗(原作)
さのさくら(漫画)
講談社モーニングKC

実存は本質に先立つ。君を縛るものがあるならそれは君が作り出した君の中の真善美という虚像。その虚像の間違いを探し修正し続ける、それが人間になるということだ。
それはときに怖いし孤独かもしれない、だから生きる意味も分からなくなるかもしれないが、それでも楽しいから生きる。

サルトル

あらすじ

美大を目指す女子高生巫(かんなぎ)マリオ。

進路に悩む中、ふと川でぶさいくな喋る犬(パグ)を拾う。実存主義者で哲学の巨人ジャン=ポール・サルトルが犬として現世に転生。

サルトルさんはパリに帰りたいがここは2021年川崎市。巫家に馴染んでたばこは吸うわ、酒を飲むわ。そんなサルトルさんが巫家の人々のお悩みを解決していく哲学コメディ漫画。

正しさは既製品ではなく特注品

マリオはデッサン教室からの帰りに親友であるカイリに会う。

カイリはマリオのことが友達としてではなく、恋愛対象として好きだった。度々その気持ちをそれとなく伝えるような行動を起こすが、マリオはそれにまったく気が付かない。痺れを切らしたカイリはマリオに告白するが、普通とは違う愛の形に戸惑ってしまう。

デッサンの先生(ゲイ)に相談すると、マリオ自身がカイリのことを恋愛対象として好きなのでなければ、どうしても相手を傷つけない選択はあり得ないと答える。好きなら受ける、いやなら断る、この2択以外はない。相手にとっては断れば失恋、同情されてもみじめ。そもそも現時点で他人に相談を持ち掛けたことがアウティングになってしまう。

普通とはなんなのか。勇気を出して告白した友人に対する誠実な応えとは。

傷つかない答えを探すのは正しい答えを探しているとは言えない。大事なのは今後の2人の関係がどうあってほしいかを答えに導くこと。

人間は言葉でできている

普段は引きこもりがちなマリオの兄がみんなでBBQに来た。雰囲気に馴染めない兄はこの楽しい場でも自分の居場所がないような気がしている。

そこでサルトルさんが誰とでも軽快におしゃべりする秘訣をアドバイス。

おしゃべりは発語による言語表現で言葉は彩ることができる。古代ギリシアでは雄弁術なんてものがあったほど重要な能力。そこで生まれた技術がレトリックで、簡単に言えば直喩・暗喩・換喩などの比喩表現だ。ほかに誇張法、列叙法などベストセラー作家であるサルトルさんならではの説得力を展開。

人間は思考も表出も言葉で行い、言葉なしでは生きられない。それなのにコミュニケーションがうまくいかないのは決まって舌足らずである。

だから時に言葉は相手に頼るしかない。気持ちが伝わるように投げかける。

もしもうまくおしゃべりできないなら、半分は相手の責任だと思っておくと気が楽になる。

愛とは自由だ

あらゆる決断を先送りしてきたマリオの兄が、周囲の人たちによって外堀を埋められ、強制的に縁談が進められ結婚する。

そこでサルトルさんが円満な結婚生活の秘訣をアドバイス。

ずばり「浮気をしなさい、お互いに」

夫婦円満には浮気と自由恋愛にある。結婚するほど愛しているならその愛は必然で素晴らしいもの。

しかし偶然の愛もある。浮気も愛に変わりなく、愛そのものはすべてが美しいはず。

人間は自由な存在で、誰を愛し誰と肌を重ねるかも自由。自由の寄る辺のなさに不安を感じ、道徳というまやかしに自分をはめこもうとするのは欺瞞である。

感想・書評

哲学者サルトルの言葉を、現代人のお悩みに回答する形で漫画にした哲学コメディ漫画。

サルトルの主張が現代的な感覚では絶妙にかみ合わない部分もあるが、毎話短いストーリーの中でうまい返しで問題解決に導いてると思います。小難しい哲学の話というのはなくて、私たちが日常生活の中で感じるよくある悩みを哲学的アプローチで諭してくれるようです。

そんなサルトルがぶさいくなパグ犬の姿で核心的な名言を残すギャップがシュールです。サルトルの性格面も強調されており、特に愛や性の話になると熱くなりすぎて下品なゲス犬になります笑

哲学は難しいものとして捉えられがちですが、極論考えることが哲学で、普遍的な悩みに対する答えを導こうと努力するのは全て哲学です。そして人は生きている限り必ず悩みます。しかも皆同じような問題で悩むもので、絶対的な回答はないものの、哲学はそれぞれの個人が考える指針になってくれるでしょう。

JK一家の日常漫画に笑いと哲学を織り交ぜた新しいジャンルだと思いました。

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