
「知っている」と「考える」はまったく別モノ。
知識は過去の事実の積み重ねで、思考は未来に通用する論理の到達点です。知識の多くは過去において他の人が考えた結果を書籍や講義から記憶しているもので、考えるべき時に知識を取り出すのは他人の思考をただ提示することに変わりません。
この本では自らの頭で考えるための重要なプロセスが解説されています。
概要
会議に結論が出なくてずるずると長引くことがよくあります。何かを決めるときには「情報」とは別に「意思決定プロセス」が必要なのです。
例えば買い物において価格情報をひたすら収集するのではなく、上限の値段を設定してフィルタリングすること。なんとなく夕食を考えながらスーパーへ行くより、メニューとレシピを決めてから買うべきものをリストアップすれば時間もお金も無駄がありません。
意思決定においては今求められている情報に集中することが大切で、最初に考えておくべき決めるプロセスというものがあるのです。
思考は情報収集作業ではなく、インプットした情報をアウトプットして結論に導く変換プロセスです。仮の結論でも間違っていても、なんらかの結論にたどり着くべきでしょう。
「なぜ?」「だから?」と問う
数字を見たら二つの問いを立てます。
数字の背景を探る「なぜ?」と、データの先を考え予測する「だからなんなの?」の二つ。
なぜ売り上げが伸びてるのか、そしてそれは来月にも続くのかあるいは落ち込むのか。数値で反映された事実を、人より深く読み取るために必須の考え方です。
判断基準はシンプルに
選択肢が多く判断基準が複雑になると物事の決定打が欠けます。
レストランを選ぶにしてもジャンル、味、口コミ、雰囲気、価格、立地、予約など総合的に勘案すると必ず一長一短になってしまう。だから予算は〇〇円といった条件を作って判断基準を絞っていくこと。いくつもある判断基準はすべてが同程度の重要度ではないので、その時々にもっとも重要な基準を見極めて判断する決断力が試されています。
判断基準の決定プロセスの一例に、婚活女子マトリクスにおける「相性」と「経済力」があります。相性も経済力も基準以上ならOK、どちらも基準外ならNGとなるのは明確。問題は相性と経済力のどちらかが基準を満たさないときに、どちらの基準を優先して判断材料にするか。
そこで自分軸と相手軸で考えてみましょう。相性は自分の慣れや努力次第で調整できますが、経済力は相手次第になってしまうところが大きいです。つまり相性が良くても経済力のない人より、相性がいまいちでも経済力のある人のほうが婚活女子から見た価値は高い。このような視点を持つことがシンプルな判断基準を備えるということです。
現実的にはもっと複雑な問題が多く、簡単に判断基準を絞り込むことはできませんが、思い切ってシンプルに削っていくことで本質が浮かび上がります。
データをトコトン詰める
本書では日本の自殺人口の多さとその原因データを例に出しています。
全体の自殺要因の多さを数だけで見れば健康問題が顕著で、次いで経済問題が多い。高齢化やうつ病の増加から健康問題と直結させてしまうが、見方を変えると違った側面が見えてきます。
自殺要因を男女別に並べなおすと男性の経済問題が多い。さらに年代推移をみると1998年に男性自殺率が高く、その時代背景には経済危機による金融業界の混乱が関係しています(日本列島総不況年)
対して女性は健康問題がぶっちぎりで多いが、経済問題においての自殺率は相当に低い。
自殺概要資料を一つとっても、ただ表面的な数値をなぞったものと、深く読み込んで考えた内容から受ける印象は大きく変わってきます。
知識は「思考の棚」に整理する
知識と思考の最適な関係は「知識を思考の棚に整理する」ことです。これによって個別の知識が意味を持ってつながり、全体として異なる意味が見えてくることがあります。この統合された知識から出てくる新たな意味を洞察と呼びます。
思考の棚を持っていると、次に知りたい情報を意識的にとらえることができるようになり、欲している情報に敏感になれます。これが知識の正しい格納。
さらに常日頃から考えた仮説を格納しておけば、裏付けとなる新たな情報を入手した際に、瞬発力のある思考の結論を導き出せます。気の利いた意見を述べる頭の回転が速い人は、こういった知識と思考の整理がしっかりできている人です。
書評
2005年から自分の思考をブログに書きしたためている、社会派ブロガーちきりん氏による著書。TwitterやVoicyでよく見ますが、とても参考になる話や的を射た意見が多いです。
SNSで影響力の大きい人にありがちな、とがった発言なども見られないような気がします。きっと長年インターネットを渡り歩いてきた、処世術のようなものがあるのでしょうね。
自分のアタマで考えた意見が常に支持されるとは限りませんが、借り物の意見やつまらない感想を述べる程度から脱却した、社会人としての品のある議論には欠かせないスキルだと思います。
テレビのニュースを見て「へ~」と頷いて次の日には内容を忘れてしまうような人に、思考力を鍛えるトレーニングとしておすすめできる一冊です。
自分のアタマで考えよう
自分のアタマで考えよう 知識にだまされない思考の技術
ちきりん
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