
コロナ渦において「孤独」や「おひとり様」という言葉がメディアでもち上げられた時がありました。物理的に他者と距離をおくので、必然的に一人で過ごす機会が増えます。
日本では昔から「和」や「協調」など集団的な取り組みや形成に美徳を感じるところがあり、孤独という言葉が少々ネガティブに捉えられがちだと思います。それが皮肉にもコロナによって、孤独や1人での活動を肯定的に捉えていく機運が一気に高まったようです。
図書館に行ったとき、そんな世間のあおりを受けて孤独やおひとり様ライフの特集エリアが設置されていました。その時に手に取った一冊が非常に良かったのでご紹介します。
概要
本書は「孤独」をテーマにした5章立ての名言集となっており、名言に続いて解説や出典となる本の文脈が記載されているアンソロジー形式です。
- 孤独が一番の贅沢
- 簡素に生きる大切さ
- 心を豊かにする働き方
- 持たない喜び
- 自然の教え
孤独を愉しむ方法、人間らしく生きる方法、シンプルに暮らす大切さについて、150年前、アメリカの森の中の湖の畔で、小屋を建てて自給自足の生活をしながら遺した思索家の言葉を、わかりやすくいまに生きる人に向けて編集しました。
ガンジー、キング牧師を動かし、環境保護運動のバイブルともなり、世界を変革した言葉は「森の生活者」の孤独な時間から生まれました。心豊かに生きる秘訣がこの本には書かれています。
イースト・プレス 内容紹介
本書の中から個人的に特に気に入ってる内容を抜粋して紹介します。
「みんな」という言葉にまどわされてはならない。「みんな」はどこにも存在しないし、「みんな」は決して何もしてくれない。
多数による同調圧力をもってして相手を丸め込んだり、「みんな」という主語の大きい曖昧な対象に責任をおしつけたり、そうやって本来の自分を喪っていってはいけません。
退屈するのはその中に野生がないからだ。
文学の中で人の心を惹きつけるのは野性的なものだけである。つまらなさとは飼いならされていることの別名だ。
『ハムレット』には洗練されていない自由奔放な思考があって、言葉にできない美しさを含んでいます。 動物に例えるとわかりやすく、同じ動物でも飼いならされた動物園で眺めるのと、自然豊かな山の中で発見するのでは感動が大きく異なります。
生活費を稼ぐために、起きている時間のほとんどを労働に費やすのは、明らかに失敗だ。
ほとんどの人のように午前も午後も自分の時間を社会に売り渡してしまったら、人生は生きる価値のないものになってしまいます。目先の利益のために生得権を売り渡さないことがソローの信条。
人間は自分がつくった道具の道具になってしまった。
道具や手段が進歩しても達成したい目的は今も昔もずっと変わらないものが多々あるでしょう。
近代的な発展を肯定するばかりでは別の何かを失ってしまうかもしれません。
僕たちが住むこの地球も、宇宙の中ではほんの小さな点にすぎない。
ソローは他人からよく「森で暮らすのは寂しいだろう」といわれていました。
しかし視座をあげれば、この地球だって広大な宇宙から見ればほんの小さな点にすぎない寂しいものです。
書評
名言集なのでパラパラと気軽に読んでいけるし、気に入った部分には付箋をつけて何度も繰り返し読んでいます。
心の賛沢は、一人の時間から
孤独には、力がある。
イースト・プレス(コピーライト)
孤独が決して悪いものではないことや、むしろ人間が本質的に豊かな精神性を育むためには孤独が必要であることが分かります。
自分が一人であることに寂しさを感じているのであれば、それは孤独を味方にして自分を成長させるチャンスでもあるのです。
ちなみにこの本の装丁のつくりがよくて、内容も何度も読み返したくなるような本だったので、図書館で返却した後に自分で購入しました。さらにkindle版も購入したくらいお気に入りの一冊です。
孤独の愉しみ方
孤独の愉しみ方 森の生活者ソローの叡智
ヘンリー・ディヴィッド・ソロー
服部千佳子(訳)
孤独を愉しむ方法、人間らしく生きる方法、シンプルに暮らす大切さについて、150年前、アメリカの森の中の湖の畔で、小屋を建てて自給自足の生活をしながら遺した思索家の言葉を、わかりやすくいまに生きる人に向けて編集しました。
ソロー「森の生活」を漫画で読む

シンプルな生き方を提唱した名著の誉れ高い『森の生活』
実際に読むと長大で難解なこの作品を、選び抜いたソローの文章とジョン・ポーサリーノによるシンプルな描線で漫画にしたのが本書。
後半には引用されたソローの文章を訳出し、その言葉がどんな文脈で書かれたのかを解説しています。
ソローってどんな人?森の生活とは?という人にはこちらの漫画の内容が易しいのでおすすめです。
この世界で生きることは苦行ではなく、遊びなのだ。シンプルに賢く生きてさえいれば。
ソロー
ソローの遍歴
ハーバード大学卒業からパブリックスクール辞職の理由、執筆業で生計を立てる動機、森での生活、政府への意思表明、森での生活実験終了後の講演活動までの遍歴が記されています。
ソローの1845年3月~1847年9月までの日記は、アメリカ文学を代表する「森の生活」として出版され、これに触発されて多くの国立公園が生まれ、生態系保存活動が促されました。
また、エッセイ「市民としての反抗」こちらも20世紀のイギリス統治に対するインドの独立運動や、アメリカの公民権運動などに影響を与えています。
ウォルデン湖での生活
四季を感じ、動物の足跡を追い、ハンノキやブドウなど自生する植物、ウォルデン湖の情景を眺める生活。2エーカー半の土地にインゲン豆、ジャガイモ、トウモロコシ、エンドウ豆、カブなどを植えていました。
農作業して、1~2時間休息して、昼食をとり、泉のそばで本を読む。
そうやって自然と一体になっていく中で気がついたのは、すべては神秘的で果てしなく、自然を味わい尽くすことはできないということ。
人は容易いルートばかり歩くから、何度も行き来するうちに踏みならされ、伝統や文化という轍が刻まれます。だから森へ行くのはそんな流れへの逆行ともいえるのでしょう。
書評
漫画とありますが、実際にはイラストをぽつぽつと単純なコマでつなぎ合わたような、シンプルな線の絵本調の本です。思考をセリフ化して、コマとアンニュイな無言の表情だけで文脈を補完させる特徴的な漫画です。それがソローらしさを引き出してるようで、シンプルな構図だけどじっくりと時間をかけて読んでしまいました。
内容としてはソローを何も知らない人からすると、なんとも虚無的な無感動なストーリーに思えるかもしれません。しかしそれが現実ですし、そこに本来の生きる本質を見出す価値があります。
ソローは隠者ではなく、森の生活でも多くの客人を招き入れていましたし、自分が村に足を運ぶことも度々ありました。彼の見立てでは、子供や女性は森の中が好きでしたが、商売人や農夫に限って仕事と孤独の話ばかり気にしてくるそうです。社会生活の中で人々の大事な感性が失われていくことを嘆いているようですね。
後半には抜粋解説文もあるので、漫画で抽象的に表現してる部分はそちらで追って理解するといいでしょう。ジョン・ポーサリーノが、いかに言葉少なに「森の生活」を捉え、ウォルデン湖の静寂やソローの静謐な思考を再現しているかが分かってくると思います。
ソロー「森の生活」を漫画で読む
シンプルに暮らそう!ソロー『森の生活』を漫画で読む
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー
ジョン・ポーサリーノ(絵/ 編集),
金原瑞人(訳)
人生の針路に迷ったとき、この本を開いてみてください。シンプルな絵の中に珠玉の言葉が散りばめられています。