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【サクッとわかるビジネス教養地政学】世界の国同士のバランスがざっくり分かる一冊

世界の情勢や、国同士の立ち位置や力関係など、ぼんやりニュースを見ているだけでは見えてこない視点を、地政学というアプローチで分かりやすく解説してくる本。

結局は土地を持つことがすべて。軍事的に優位な立地、経済的に豊かな土地、このような恵まれた土地の有無が国同士の駆け引きの肝になっているのです。

著者のブログ「地政学を英国で学んだ」は国内外問わず多くの専門家から注目され、最新の国家戦略論を紹介しています。

※2022年2月からロシアとウクライナの戦争が起こったため『ウクライナ侵攻の真相』が加筆・PDF配布されています。

奥山真司(監修)

地政学・戦略学者。戦略学Ph.D.(Strategic Studies)国際地政学研究所上席研究員。多摩大学大学院客員教授。カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学卒業後、英国レディンク大学院で、戦略学の第一人者コリン・グレイ博士(レーガン政権の核戦略アドバイザー)に師事。地政学者の旗手として期待されており、ブログ「地政学を英国で学んだ」は、国内外を問わず多くの専門家からも注目され、最新の戦略論などを紹介している。現在、防衛省や大学などの教育機関で地政学や戦略論を教えている。また、国際関係論、戦略学などの翻訳を中心に、若者向けの国際政治のセミナーなども行う。

概要

本書ではとくにアジア(中国VSアメリカ)、中東(イランVSアメリカ)、ヨーロッパ(EU・NATO VSロシア)の地理的な衝突から国のふるまいをマクロな視点で言及しています。

地政学を戦略に活用すれば「道」や「要所」をおさえてエリアを支配するのが効率的でしょう。

国の存続に物流は欠かせないものとなっており、地理条件から経路が限られている要所をおさえるのが戦略です。

地政学の基本的な概念

地政学は地理的な条件をもとに、他国との関係性や国際社会での行動を考えるアプローチ。

世界の覇権国アメリカは関与レベルを以下の段階にしています。

  • 全土に出向いて軍隊を常駐させ国を管理下におく完全支配
  • 重要なエリアにのみ軍隊を駐留させ必要な部分のみコミットする選択的関与
  • 領土に出向かず離れた位置から必要に応じて圧力をかけるオフショア・バランシング
  • 対外戦略の1つとして軍隊を撤退させ重要なとき以外は派兵しない孤立主義

突出した強国をつくらず勢力を同等にして秩序を保つ国際メカニズムにあたるバランス・オブ・パワー。

海路(ルート)上の絶対に通る関所をチョーク・ポイントとし、具体的には陸に囲まれた海峡や、補給の関係上必ず立ち寄る場所のことをいいます。パナマ運河、マゼラン海峡、スエズ運河、イギリス海峡、台湾海峡など。

大陸国家によるランドパワー、海洋国家によるシーパワーは歴史的に大きな国際紛争を伴って常にせめぎ合ってきました。これらを両立することはできず、大陸国家が海洋進出をすると大抵失敗してきた歴史があります。

ハートランドはユーラシア大陸の心臓部で現在のロシアあたりのこと。寒冷で住みづらく文明は栄えていません。リムランドはユーラシア大陸の海岸線に沿った沿岸部で経済活動が盛んなエリア。世界の大都市の多くが集中しています。つまりリムランドは、ハートランドのランドパワーと周辺のシーパワーという、勢力同士の国際紛争が起きやすい場所となります。

関係国とのリアルな情勢を知る

日本は島国という地政学的な優位性で独立を保ってきましたが、長きにわたりそれを維持できる国はほとんどありません。日本の鎖国が破られたのも必然だったのです。

次に北方領土問題について。なぜロシアから返還されないのか3つの理由があります。1つはロシアにとって対アメリカの防衛拠点のため、2つに北極海ルートが貿易の新しい道になる可能性があり、3つに日本にとって地理的メリットのない土地だからです。

そして日本の米軍基地について。アメリカにとって沖縄米軍基地がいかに完璧な拠点であるか、そもそも米軍が日本にとって抑止力以外のどんなメリットがあるのか、対馬列島や尖閣諸島の衝突の根底にある近海の争いなど解説されています。

アメリカ・ロシア・中国の戦略

孤立した大きな島だからこそ巨大なシーパワー国家になれたアメリカは、地政学的に恵まれており、他国から侵略されにくく戦力を国外に向けやすかったため世界の覇権を握ったとされています。ユーラシア大陸のリムランドにある戦略地域において、バランスを見ながら台頭する国が出てきたら積極的に介入しているのが、アメリカが世界の警察と呼ばれる所以ですね。

ロシアは海外に進出するルート、広大な領土を守るバッファゾーンなどに焦点をあてています。とくにクリミア併合は黒海ルートに影響力をもつために絶対におさえておきたく、NATO勢力とのバッファゾーンとしてウクライナも外せません。

中国は海洋進出を目論んでいるが、地政学的にはありえない戦略を立てています。点で拠点をとらずに、海に線を引いて面でアプローチする一帯一路構想です。

アジア・中東・ヨーロッパの地政学

東南アジアの小国は大国を天秤にかけて駆け引きをしながら立ち回っています。安全保障はアメリカに、経済は中国にといった具合です。

中国の裏で急成長しているインドは、石油ルートを巡り中国との対立があります。中国は海洋進出したいところで、両者にとってインド洋が重要な石油の確保ルートになるからです。

小さな都市国家でもシンガポールが発展できたのは、アジアのハブとして高いポテンシャルがあったこと。チョーク・ポイントであるマラッカ海峡に接して貿易拠点になることなど地政学的利点があったからです。奄美大島くらいの国土面積にもかかわらず、一人当たりのGDPは日本を上回っています。

中東は古くは貿易の中継地として、近代では石油の産出地として常に世界の要所となっています。かつてオスマン帝国の時代は平和だったのが、今では世界でもっとも混迷を極めるエリアに。

戦後植民地から独立し独裁者が乱立、ソ連崩壊後に独裁政権が倒され春のアラブが起き、宗派対立や部族紛争が多発して政府の力が及ばない空白が生まれISも誕生しました。さらにサイクス・ピコ協定が中東の分布を強引に分断したため、それぞれが国への帰属意識がありません。長らく他国が統治する傀儡国家だったので、独裁的な指導者でないと国を治めにくい体制になってしまっています。

ヨーロッパは大きな半島とも見れるので、大国同士のせめぎ合いの影響を受けます。東のロシア、南のイスラム諸国とせめぎ合いを続けてきました。小国の多いヨーロッパが対抗手段として経済協力のEU、軍事協力のNATOを発足。そしてイギリスが独自の外交戦略においてEU離脱した理由、戦後のドイツ経済が発展した経緯、なぜフランスでテロが多発するのかといったことが語られます。

書評

アメリカと中国の関係、沖縄基地や北方領土の問題、中国の一帯一路、イギリスのEU離脱、香港デモなど、世界情勢の「なぜ」がよく分かる一冊です。カラー図解が豊富で、タイトル通りサクッと読み進めるのにちょうど良いですね。

国際問題には宗教、民族問題、人種、歴史的対立などあって、地政学ではあくまでも地理を前提に、ビジュアライゼーションの概念で紐解いていきます。また、戦争における戦略概念には上位から順に世界観、政策、大戦略、軍事戦略、作戦、戦術、技術という階層があり、その中の上から3番目にあたる大戦略が地政学的観点です。

地政学に義理人情や好意など一切なく、国益第一の領土や権力争いで殺伐とした話になりがちです。こうしてみると世界平和なんて耳障りの良い言葉も、それぞれの世界観、国、人、民族、宗教によって、そもそもどのような状態が平和なのかが異なります。人びとが自分たちに都合の良い平和を求めるからこそ絶えず争いがおこり、平和を求めることこそまた争いの種になっているのが皮肉な哀しい話です。

関連書籍に「13歳からの地政学」も紹介しています。こちらは本書「ビジネス教養地政学」では取り上げられていないアフリカの経済事情にも言及されていました。ビジネス教養地政学は各国の軍事的な思惑や戦略による地政学の話がメインで、「13歳からの地政学」はより解釈の広い経済や地球の将来まで含めた物語形式になっています。

サクッとわかるビジネス教養地政学

¥1,300

ビジネス教養 地政学 サクッとわかるビジネス教養
奥山真司(監修)

国際情勢を読み解く必須知識「地政学」の定番書、20万部突破!

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【13歳からの地政学】地理と歴史と経済のポイントを線でつなぐ

ビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」を受賞し、20万部以上売れている地政学関連で最も注目の入門書です。

おすすめされて読んでみましたが、13歳とは言わずに大人でも一読の価値ある良書でした。

田中孝幸

国際政治記者。大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで取材した。

概要

アンティークショップの貿易商である「カイゾク」が、二人の少年と少女に7日間の講義形式で地政学を教える物語仕立ての入門書です。

それぞれの章を簡潔にまとめました。

物も情報も海を通る

貿易の9割は海を通って実現しています。もっと空輸も活用されているのかと思いきや、圧倒的にコスト面で海路が利用されています。

また海底ケーブルは情報をの要。さらに海の深さにも着目すると日本の海水体積は世界トップクラスであり、経済的にも優位な点があります。

地政学においてまずは『海』の重要性をおさえなければなりません。

日本のそばに潜む海底核ミサイル

海の話につながりますが、核ミサイルは3つの条件で最大効力を発揮します。

  • 原子力潜水艦
  • ミサイルの発射力
  • 潜水艦を隠せる海

これらの条件を揃えているのが現在はアメリカとロシア。そして中国が南シナ海を欲しがる理由が、この海底核ミサイルをおさえられるからです。

核ミサイルが外国への牽制力になるように、国の位置が外交を決めているのが地政学的見かたです。

大きな国の苦しい事情

主にユーラシア大陸のロシア、中国、ふたつの大国。どちらも陸続きで多くの国と接しているのが共通します。

隣接する国同士は関係性がデリケートになります。昔と今で地図を見比べてみると、国境の形が違うのは領土紛争があった証。

また、国内での少数民族による独立運動など、国外へ出ていこうとする遠心力と現行の国が引き留めようとする力の二つが常に動いています。こういった治安維持に大金を必要とするのも大陸国の特徴。管理が難しく領土を守るのに困難を伴います。

絶対に豊かにならない国々

なぜアフリカにお金がないのか。気候や食糧問題ばかり取り沙汰されるが、実は天然資源が豊富で、サハラ砂漠は大陸の1/3以下で緑や水も豊か。住みやすい土地も多い。

その理由は端的にいって政治家が海外に金を流してるからです。アフリカが大国の植民地支配の歴史にあり、ヨーロッパやアメリカがそのお金を吸い上げている。そんな構造は現代でも変わらず、アフリカの上層と外国がタッグを組んでいるのです。

この根本を解決しない限りアフリカはいつまで経っても貧しいまま。

このようなリーダーが多く軍事政権や独裁政権が多いのは、国境を定規で引いたヨーロッパの国々の支配にあったからです。各国の事情を知らずに分断された国境では、民族や部族間で遠心力が働き国としてまとまることはありません。それ故に手っ取り早くまとめるには強引なリーダーしかいないのです。

悪い歴史を継承しながら、先進国で誰もやりたがらない辛い仕事を押し付けるために、常にアフリカを弱らせている節もあるでしょう。

フェアトレードのチョコレートはカカオ農家と公正な取引で買っていることを示しますが、逆に言えばほかのチョコは押しなべてフェアな取引ではないことを意味します。カカオをアフリカで加工して輸出する方が絶対にいいのに、誰も技術や機械、お金、教育などアフリカのためにお金を使いません。

アフリカに貧しいままの悪循環を維持させており、さしずめ現代資本主義の奴隷制度のようなものと言えるでしょう。安くて良い物の危うさは、このように誰かの犠牲に成り立っていることがあります。安い理由には技術を高めて効率化して安くするか、人を安く雇って使う、この2パターンしかありえないのです。

地形で決まる運

アメリカは世界一恵まれた土地です。二つの大海に接し、赤道や北極から程よい距離にあり、気候が良く、農産物を作る土地、豊富な天然資源、豊かな自然、世界中から人が集まる多様な文化。恵まれた条件が重なり世界トップになれたともいえます。

逆に朝鮮半島は不運な地形にあります。大国に近く、周りに大きな自然による障害物がなく、豊かな資源・農産物・港や貴重なものがある土地。何度も外国の戦場になり、大国の支配下にあった歴史を辿ってきました。周りの国が欲しがるものがありつつ、攻められやすい地形だということです。

宇宙から見た地球儀

地球上でもっとも歪んでいる大陸は南極大陸です。大きな陸地に分厚い氷が乗っかった、アメリカやヨーロッパよりも大きな大陸。どの国の領土でもないが天然資源が多く、南極条約によって軍隊を置くことも禁じられています。

もっと視点を俯瞰して宇宙開発がすすむ現代。北極や南極など基本的に人が住めない土地や海を含めて、地球全体をみる機会が増えました。将来、宇宙空間を巡って縄張り争いが起きることだって考えられるかもしれません。

書評

ストーリー仕立てで地政学を学べるので、地政学の入門書に最適な本です。

私たちは学校の社会の授業で地理や歴史については学んできました。そして政治は公民という科目で勉強してきましたね。個人的には社会の授業は基本的に暗記が多くてあまり好きになれませんでした。

しかし地政学という観点を得ると、過去に学んだ地理や歴史のポイントが線となって繋がるところが生まれるのです。

国際政治に関するニュースを見ていても、地政学的な視点があるかどうかで捉え方も変わってくるでしょう。

タイトルには「13歳からの~」とありますが、本書は確実に大人が読んでも役立ち、楽しめる一冊だと思います。

13歳からの地政学

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13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海
田中孝幸

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