
稲盛和夫の名言を抜粋して、それに細かい説明を肉付けしていくような構成の本でした。見開きに稲盛和夫の肖像写真と名言が挿入されています。
概要
稲盛和夫の功績を振り返って、どんな境遇にあろうと「人間として正しいことを正しいままに貫く」を実践してきた『考え方』にせまる内容です。
本書から個人的に良かったセクションを抜粋して紹介します。
大きな志しを持つこと
自分の可能性をひたすら信じ、実現することのみを強く思いながら努力を続ければ、いかなる困難があっても必ず実現する。こうしたいと思っても実現するのは難しいと多くの人が後ろ向きに考えがちだが、一切の疑念を捨てて実現を信じること。これが自然と努力を引き出してくれます。
ビジネスの世界では挑戦的で独創的なことをしようとするときに必ず多くの障害が出てきます。これを克服するには一途な信念で乗り越えるしかありません。
1984年電気通信事業の自由化により国策会社の電電公社が民営化されNTTになり、通信事業への新規参入が認められました。しかし明治以来のNTTによる膨大な通信インフラに誰も太刀打ちできません。国内の長距離電話料金が世界的に見て高すぎるため、通話料金を安くする大義を掲げて不利な局面を駆け抜け、現在では市場をリードするKDDIとなりました。
誠実であること
常に正しい道を踏み誠を尽くして仕事をする。相手に迎合したり、うまく世渡りできるからといって妥協するような生き方をしてはなりません。
行き詰ると良心ではよくないとわかっていてもつい悪いことをしてしまいます。極端にいえば結果良ければすべてよしな思考に陥ります。そうして自分を納得させ悪に手を染める。どんなに難しい局面でも正道を貫く人間としての正しい姿勢は維持しないといけません。
不正や不真面目を嫌い、強い正義感を持っていた稲盛。最初の職場で開発に成功してから実質的に現場を仕切る立場にありました。戦後は業績が低迷して赤字が続き、労働争議が頻発して、待遇も悪いのでみんな一生懸命に働かず不要な残業代を稼ぐのが常態化していました。人件費が製品コストに跳ね返るので残業禁止にしても多くの不満を買うのは必至。「ここで苦労して低コストで製品を作れば、近い将来競争力がついて必ずいやというほど注文が来て残業することになる」と説得します。
管理職でもないのに経営者より厳しい要求だと労働組合で査問委員会にかけられつるし上げられた経験もありました。それでも敢然と会社の先行きを訴え正道を貫く反論で自分の正義を貫いたこと。正しいことをしていると信じていたし、同時になぜ正しいことをしてるのに理解してくれないのかと悩んで孤独を感じていました。稲盛が小川のほとりで泣いていると有名になった話です。
職場の人間関係に角が立たないように、世の中をうまく立ち回るために、自分の信念を曲げて周囲に迎合しない。嫌われても正しい主張は通さないといけない場面があります。
心が純粋であること
27歳で京セラを作って感謝を意識するようになった稲盛。経営経験もないのに、会社を設立してくれた人々にこたえるべく昼夜兼行で仕事に励み、困難な要求は自分をのばしてくれる機会としてポジティブに受け取りました。無理にでもありがたいと感謝の心を持つくらいがちょうどよい。
できるだけ欲を離れて三毒(欲望・愚痴・怒り)を完全に消せなくとも抑制するように努めました。いかに恵まれていようとも際限なく欲をかけば不足を感じ、不満でいっぱいで幸せを感じられません。幸せかどうかは人の心の状態によって決まるもので、条件を満たして得るものではありません。足るを知り、自らの心を作っていくことこそが、幸せを感じるために大切なことです。
世のため、人のために行動する
利他は社会をよりよい方向に導く心。犠牲を払ってでも世のため人のために尽くすことは、実は自分自身の人生も好転させます。一見回り道のように思えますが、情けは人のためならずといわれるように、巡り巡って自分に返ってくるもの。
見返りを求めるという話ではなく、相手の役に立った喜びそのものが、自身の誇りになるという話です。
書評
稲盛和夫という松下幸之助に並ぶ経営の神様による言葉の数々。その功績と人格からこれ以上ない説得力を含んだ一冊です。
特筆すべき点は、人間の「心」や「正しさ」に訴えかける内容が多く、経営者のみならずすべての人に通ずる誠の言葉にあふれています。難しいことは一つもないのだけど、いざ改めて考えてみると自身を見直さなければいけないことに気づかされます。
善い考え方が人を育み、周囲を奮い立たせ、社会に影響を及ぼす。そんな原点に立ち返るための「考え方」を問われているようです。
考え方
考え方 人生・仕事の結果が変わる
稲盛和夫
これから就職を目指す人、社会に出る人から経営者まで、人生の目的に迷うとき、生き方に悩むとき、心が晴れないとき、支えになってくれる一冊!