
一巻完結漫画の中でおすすめの漫画であげられることが多い本作。私もお気に入りの一冊で、短いストーリーの中に複雑な心境やノスタルジックな雰囲気が詰まっています。
漫画があるのに電子書籍を買って、ラジオドラマCDや、ポストカードまで集めてしまいました。
小学生らしい無邪気さや、人の気を敏感に察知するけどうまく言葉に表せない不器用さが伝わってきます。ときに突発的な思い切った行動に出たり、自分が小学生のころを追憶するようなすごく丁寧な描写です。
あらすじ
東京から転校してきたなつるは、クラスのカースト上位の姫川からプレゼントを渡されるが、照れ隠しで逃げるようにして断ってしまいます。それがきっかけでクラスの女子から無視されるように。
普段はサッカーをしており、とくに上手だったので人気者でした。
サッカーの練習終わり、家に帰る途中で捨て猫を拾うが、母がアレルギーのため家では飼えないと断られます。仕方なく外に出て猫を諦めようとしたところ、クラスメイトの鈴村に会い久しぶりにクラスの女子と会話をします。
真っ白で「とうふ」と名付けられた猫は、飼育費を払う条件に彼女の家で引き取ってもらうことに。
鈴村は父が置いて行った養育費でスーパーで食材の買い出しから家事まで、弟の面倒を見ながら生活のすべてをまかなっていました。未だに母に甘えているなつるは、そんな彼女の生活を見て驚きと戸惑いを露わにします。彼女たちが抱えていた秘密は、父が出ていったきり子供二人だけで生活をしていることでした。
夏休み。
サッカーコーチとそりが合わないなつるは、夏の合宿をさぼって公園で弁当を食べていました。
一方で鈴村に預けた猫の様子を見に行くと順調に成長しています。鈴村と弟の二人も相変わらず二人だけで貧しい生活を送っていました。
合宿をさぼった手前、家に帰れないなつるはそのまま鈴村の家に泊まっていくことに。鈴村たちの自立した生活ぶりと、自分が合宿から逃げ出して甘えた現状を比較して、なんと子供らしいことかと情けなくなりました。
こうして秘密の夏休みが始まり数日、ついに鈴村の父が帰ってくる日がきました。しかし約束の日時がすぎ、いくら待てども父は帰ってこない。
そしてなつるは鈴村家のさらなる秘密を知ることになります。
書評
たった1冊で完結する短いストーリーの中に、キャラクターそれぞれの感情や想いがパラパラと小さな粒となって広がっているイメージ。それでいて物語全体がばらけずに、きっちりとまとまっているのがこの漫画の良さです。
俗に言うと感傷的なエモさやノスタルジーがあって、自分が小学生の頃の不器用さや無力さが思い起こされるような感じです。非現実的な話であり、どこか現実味も帯びていて、この作品がもつ独特の魅力にからめとられました。
内容としては「小学生がそんなことしないだろう」とつっこみを入れられそうなところもありますが、あながち絶対にあり得ないとも言えない状況が絶妙です。
そして何よりもなつるの感情表現がとても奥行きがあって漫画的に素晴らしいのです。主人公の心を突き動かすエピソードや設定がいくつもあるのですが、状況に応じて表情に出したり、言葉にしたり、うまく表現できずに苦しんだり。
「神様がうそをつく。」意味ありげな含みのあるタイトル、これもまた最後に物語を綺麗におさめてくれました。
なつる、今までずっとあのこを守っていたの?
律津子
このセリフを読んだ瞬間泣きたくなります。
他人にはとうてい理解できない秘密を抱えて生きていくこと、唯一の理解者がいてくれる救い、これらに想像をはせると、感情移入が止まらなくなり、私にとって特別な漫画の一冊になりました。
サウンドドラマCD
この漫画のファンはたくさんいて、その中で声優の小林祐介さんと種﨑敦美さんのふたりがとくに好きで、それゆえに出来上がったサウンドドラマがあります。
非公式作品ではありますが公認となっている同人作品ですが、クオリティも非常に高く、この漫画のファンなら絶対に買って損はないものだと思います。
ボイスは8人出演、効果音などもしっかりとつくりこまれていました。
シーサイドショップでCDとダウンロード版を購入できますが、CD版には声優お二人のアフタートークも収録されています。