
シェイクスピアの喜劇のひとつ「ヴェニスの商人」を読みました。とくに四大悲劇が有名とされており「リア王」や「ハムレット」は読んだことありましたが、喜劇を読むのは初めてです。
あらすじ
舞台は水の都イタリアのヴェニス(ヴェネツィア)と、ベルモント(架空の都市)における貿易商と金貸業の2人を巡る物語。
話の大筋は主に4つです。
- 人肉裁判
- 金銀鉛の箱選び
- ジェシカの駆け落ち
- 指輪の紛失
バサーニオーはベルモントの貴婦人ポーシャに求婚するため、各国の王様にも対抗できるだけの財産が必要でした。
貿易商のアントーニオーは親友であるバサーニオーから、その求婚のためのお金を貸してほしいと頼まれるが、彼の財産のほとんどは航海中の船にあって貸せるだけの金はありません。親友の頼みとあらば、強欲で高利貸しといわれるユダヤ人、シャイロックに頼るほかありませんでした。
シャイロックがアントーニオーに提示した条件は、3000ダカットを期間3か月で返せなかった場合、体の肉を1ポンド切り取るというもの。実質命と引き換えの契約ですが、アントーニオーは2か月のうちには船が戻り借りた金の9倍はあると見立てていたので承諾します。
一方でバサーニオーはアントーニオーが工面してくれた大金で求婚前にみんなでパーティーを決行。その後、グラシャーノーと共にポーシャのいるベルモントへと向かいます。
ベルモントの貴婦人ポーシャは亡き父の遺志に沿って夫を選びます。それは求婚者に金、銀、鉛の3つの箱から1つ正解を選んでもらうもので、ポーシャの意思によって好きな人を選ぶことも、嫌いな人を断ることもできません。逆に求婚者は箱選びに挑戦したら将来どんな女にも求婚しないこと、選んだ箱は他言無用で間違ったら黙ってただちに引き上げることが条件です。
シャイロックの娘ジェシカは恋人と駆け落ちするべく、バサーニオーのパーティーに乗じて家の財産を持ち出していました。シャイロックは娘を必死に探し回り躍起になっており、その上アントーニオーの商船が難破した噂を聞きつけます。多くの財産を失ってしまう危機だが、シャイロックにとっては金が返ってこなくても、商売の邪魔になるアントーニオーの命さえなくなれば儲けもの。
ヴェニスの大商人ともいわれたアントーニオーは友人のためにここで死ぬことを覚悟していたが裁判は意外な方向へ――。
書評
シェイクスピアのような古典的な作品となると、なんとなく敬遠してしまいそうになりますが、この戯曲はとても読みやすいです。そもそも戯曲は人物のセリフだけで構成され、一部傍白で語られるので、シンプルで読みやすくなります。
しかし古い作品なので、時代背景や設定を知っておいたほうがより理解も深まるでしょう。まずこの当時におけるユダヤ人の立場を明確にします。
作中舞台はイタリアですがシェイクスピアはイギリスの作家です。イギリスではユダヤ人は排斥対象とされており、実はシェイクスピア自身もユダヤ人を知らずにイメージだけでここまでのユダヤ排斥を作品に落とし込んだのではと言われています。
キリスト教では利子をとることがよくないこととされており、そのために金貸業で栄えたユダヤ人はイギリス人の反感を買い、迫害された後に国から追放され、イギリスからユダヤ人が姿を消す数百年の空白期間がありました。ただしユダヤ人は進んで金貸業を選んでいたのではなく、仕事がそれしかなかったという状況からの結果です。
つまり作中のキリスト教徒であるアントーニオーにとってシャイロックは忌避すべき対象で、シャイロックにとってはキリスト教徒であり商売の邪魔をしてくるアントーニオーは目の敵だったわけです。アントーニオーはシャイロックが誰かに金を貸すときに、自ら無利子で貸して教義に基づいてシャイロックの邪魔をしてました。このようなヴェニス全体の利息を下げるような行為がシャイロックにとっては許せず、これならば証文の額面を返済されるよりもアントーニオーがいなくなるほうが得だと考えていました。
ユダヤ人のシャイロックを最終的に追い詰めていくことから、作品全体を通して非常に反ユダヤ的であるとして裁判になったこともあるようです。また舞台上演では喜劇ではなく、シャイロックの立場を引き合いに悲劇として上演されることもしばしば。
ただしこの作品がユダヤ人を不当に扱いたかった意図はないと思われ、シャイロックがユダヤ人の怒りや憎しみを代弁してまくしたてる重要な場面も見られます。