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【13歳からの地政学】地理と歴史と経済のポイントを線でつなぐ

ビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」を受賞し、20万部以上売れている地政学関連で最も注目の入門書です。

おすすめされて読んでみましたが、13歳とは言わずに大人でも一読の価値ある良書でした。

田中孝幸

国際政治記者。大学時代にボスニア内戦を現地で研究。新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで取材した。

概要

アンティークショップの貿易商である「カイゾク」が、二人の少年と少女に7日間の講義形式で地政学を教える物語仕立ての入門書です。

それぞれの章を簡潔にまとめました。

物も情報も海を通る

貿易の9割は海を通って実現しています。もっと空輸も活用されているのかと思いきや、圧倒的にコスト面で海路が利用されています。

また海底ケーブルは情報をの要。さらに海の深さにも着目すると日本の海水体積は世界トップクラスであり、経済的にも優位な点があります。

地政学においてまずは『海』の重要性をおさえなければなりません。

日本のそばに潜む海底核ミサイル

海の話につながりますが、核ミサイルは3つの条件で最大効力を発揮します。

  • 原子力潜水艦
  • ミサイルの発射力
  • 潜水艦を隠せる海

これらの条件を揃えているのが現在はアメリカとロシア。そして中国が南シナ海を欲しがる理由が、この海底核ミサイルをおさえられるからです。

核ミサイルが外国への牽制力になるように、国の位置が外交を決めているのが地政学的見かたです。

大きな国の苦しい事情

主にユーラシア大陸のロシア、中国、ふたつの大国。どちらも陸続きで多くの国と接しているのが共通します。

隣接する国同士は関係性がデリケートになります。昔と今で地図を見比べてみると、国境の形が違うのは領土紛争があった証。

また、国内での少数民族による独立運動など、国外へ出ていこうとする遠心力と現行の国が引き留めようとする力の二つが常に動いています。こういった治安維持に大金を必要とするのも大陸国の特徴。管理が難しく領土を守るのに困難を伴います。

絶対に豊かにならない国々

なぜアフリカにお金がないのか。気候や食糧問題ばかり取り沙汰されるが、実は天然資源が豊富で、サハラ砂漠は大陸の1/3以下で緑や水も豊か。住みやすい土地も多い。

その理由は端的にいって政治家が海外に金を流してるからです。アフリカが大国の植民地支配の歴史にあり、ヨーロッパやアメリカがそのお金を吸い上げている。そんな構造は現代でも変わらず、アフリカの上層と外国がタッグを組んでいるのです。

この根本を解決しない限りアフリカはいつまで経っても貧しいまま。

このようなリーダーが多く軍事政権や独裁政権が多いのは、国境を定規で引いたヨーロッパの国々の支配にあったからです。各国の事情を知らずに分断された国境では、民族や部族間で遠心力が働き国としてまとまることはありません。それ故に手っ取り早くまとめるには強引なリーダーしかいないのです。

悪い歴史を継承しながら、先進国で誰もやりたがらない辛い仕事を押し付けるために、常にアフリカを弱らせている節もあるでしょう。

フェアトレードのチョコレートはカカオ農家と公正な取引で買っていることを示しますが、逆に言えばほかのチョコは押しなべてフェアな取引ではないことを意味します。カカオをアフリカで加工して輸出する方が絶対にいいのに、誰も技術や機械、お金、教育などアフリカのためにお金を使いません。

アフリカに貧しいままの悪循環を維持させており、さしずめ現代資本主義の奴隷制度のようなものと言えるでしょう。安くて良い物の危うさは、このように誰かの犠牲に成り立っていることがあります。安い理由には技術を高めて効率化して安くするか、人を安く雇って使う、この2パターンしかありえないのです。

地形で決まる運

アメリカは世界一恵まれた土地です。二つの大海に接し、赤道や北極から程よい距離にあり、気候が良く、農産物を作る土地、豊富な天然資源、豊かな自然、世界中から人が集まる多様な文化。恵まれた条件が重なり世界トップになれたともいえます。

逆に朝鮮半島は不運な地形にあります。大国に近く、周りに大きな自然による障害物がなく、豊かな資源・農産物・港や貴重なものがある土地。何度も外国の戦場になり、大国の支配下にあった歴史を辿ってきました。周りの国が欲しがるものがありつつ、攻められやすい地形だということです。

宇宙から見た地球儀

地球上でもっとも歪んでいる大陸は南極大陸です。大きな陸地に分厚い氷が乗っかった、アメリカやヨーロッパよりも大きな大陸。どの国の領土でもないが天然資源が多く、南極条約によって軍隊を置くことも禁じられています。

もっと視点を俯瞰して宇宙開発がすすむ現代。北極や南極など基本的に人が住めない土地や海を含めて、地球全体をみる機会が増えました。将来、宇宙空間を巡って縄張り争いが起きることだって考えられるかもしれません。

書評

ストーリー仕立てで地政学を学べるので、地政学の入門書に最適な本です。

私たちは学校の社会の授業で地理や歴史については学んできました。そして政治は公民という科目で勉強してきましたね。個人的には社会の授業は基本的に暗記が多くてあまり好きになれませんでした。

しかし地政学という観点を得ると、過去に学んだ地理や歴史のポイントが線となって繋がるところが生まれるのです。

国際政治に関するニュースを見ていても、地政学的な視点があるかどうかで捉え方も変わってくるでしょう。

タイトルには「13歳からの~」とありますが、本書は確実に大人が読んでも役立ち、楽しめる一冊だと思います。

13歳からの地政学

¥1,650

13歳からの地政学 カイゾクとの地球儀航海
田中孝幸

読者が選ぶビジネス書グランプリ2023「リベラルアーツ部門賞」受賞!20万部突破の地政学入門書。