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【100万分の1回のねこ】13名の豪華作家陣によるトリビュート短編集

絵本『百万回生きたねこ』をモチーフにしたトリビュート短編集。

子どもの頃に誰もが読んだであろう名作絵本によせて「100万」や「ねこ」といったキーワードをもとに物語が紡がれています。

アンソロジー

江國香織、岩瀬成子、くどうなおこ、井上荒野、角田光代、町田康、今江祥智、唯野未歩子、山田詠美、綿矢りさ、川上弘美、広瀬弦、谷川俊太郎、全13名の作家による短編集。

あらすじ

本書から町田康「100万円もらった男」のあらすじを紹介します。話が分かりやすく、面白みがあって、教訓もあるので、誰にとってもおすすめの短編です。

貧窮したギタリスト

あるギター弾きの男が、金がなく腹を空かせていました。

ギターの腕は評判でしたが、劇場のマネージャーに嫌われていたので、仕事をもらえずずっと貧乏生活をしています。なんとか食いつないでいたが、とうとう一文無しに。家賃は滞納してるし、ギターもとうに売ってしまった。

突然ケータイが鳴ったものだから借金の返済連絡かと思ったが、知らない男から仕事の連絡でした。

100万円で才能を売る

大八っつぁんと名乗ったその男の要件は、ギターの才能を買いたいとのことでした。

ギターの腕には覚えがあったので、ついに自分の才能が買われるとき、つまり認められる時が来たと喜んで100万円で売ります。当然男は才能を買われたのは自らの実力が評価された、という風に受け取っていました。

男の手元には現金で100万円があって、喫茶店で大八っつぁんの分も支払いを済ませて99万9千円がある。

さっそく空腹を満たすために普段行けない高級焼肉店へ行き、借金していた音楽仲間に金を返し、たまっていた家賃を払い、以前売ったギターを買い戻しました。

そこで男は異変に気が付きます。買い戻したギターがどうも以前のようにうまく弾けず感覚が鈍っているようです。

その後も音楽チケットを買い、風俗に行き、珍妙な帽子を買ったり、やたらと飯を食い続けて、気が付いたら口座の残高は半分ほどの50万円に。

男には3日間のライブ公演の仕事がありましたが、ギターを弾いた時の違和感が表れてうまく演奏ができませんでした。仲間も調子が悪かったんだと励ましてくれていたが、2日目3日目も公演は最悪の結果に。どうやら腕が鈍ったのは気のせいではなさそうです。

ギターが弾けなくなり、彼はぼったくりバーで酒を煽るようになりました。1月半経ったころには残高は25万円に。仕事は前以上にうまくいかなくなったから、お金はみるみる減っていくばかり。

懲りずにバーへ行くと、とある中年の男が話しかけてきました。それは1月半前に喫茶店で才能を売り渡したときに、他の席に座って様子をうかがっていた男でした。中年の男はスマホであるミュージシャンの画像を見せてきました。それは最近かなり流行っている楽曲で、街中どこでも耳にする音楽ですが、そのアーティストこそあの喫茶店で才能を売り渡した大八っつぁんだったのです。

男はたしかに才能を買われたのだが、それはまさにその言葉の通り、才能そのものが買われてしまったのでした。たった100万円で大切な才能を売ってしまうなんて惜しいことをしたと後悔しても手遅れです。

彼は本来自分のものであったはずの才能を、収穫する前に畑ごと売り払ってしまったようなもの。買い戻そうったって、これからも収穫のあがる畑を誰も手放すわけがありません。

才能の畑をなくした彼にはもはや不毛の荒野しか残っていません。それでも種を蒔き、水をやって、一所懸命に生きていくしかないのでした。

まだ、わからないのか。それしかないからだよ。それだって、自分の荒野である以上、売ったら後悔するんだよ。いいかげんにわかれ。

“100万円もらった男” 町田康

書評

この短編集の趣旨は、絵本『100万回生きたねこ』と佐野洋子さんに愛をこめて。この素晴らしい絵本を礼讃するトリビュート短編集となっています。

絵本の内容を知らなくても十分楽しめますが、江國香織さんや山田詠美さんの短編は知っていた方がより楽しめるかと思います。

私はいまさら絵本を買うのもなと思って、kindleで電子書籍版を購入しました。もしお子さんがいる家庭なら紙の絵本を強く勧めます。
100万回生きたねこ(kindle電子書籍版)

あらすじ紹介した町田康さんの「百万円もらった男」は、教訓たっぷりの内容で、最後の結論まで心に刺さる名言たっぷりでした。何かの才能があろうがなかろうが、これからの人生を強く生きていく勇気をもらえる話です。


もう一つ、個人的に面白かった話が川上弘美さんの「幕間」でした。これ、わかる人にはわかるのですが、ドラクエⅤをオマージュした話になっているんですね。

私もドラクエは大好きで、もちろんドラクエ5もプレイしていました。シリーズ屈指のストーリーが評価されているゲームなので、印象に残っている人も多いでしょう。

人間っていうのは、欲張りなものだと、おれは思う。ただ生きているだけでは、足りないのだ。生きることを楽しみ、生きることを嘆き、生きることを疑う。

“幕間” 川上弘美

そんなドラクエⅤの世界にバグで迷い込んだ猫の話。猫から見た人間の愚かな生き様を描いています。

百万回生きたねこ

1977年に刊行されてからずっと読み継がれているロングセラーの絵本。

王様、泥棒、孤独なおばあさん、どの飼い主も好きになれなかったトラ猫が100万回死んで100万回生きるお話です。

そんなトラ猫がある日、誰の猫でもない野良猫として生まれ変わり、一匹の白く美しい猫に出会います。何回も生きることを繰り返して、最後にはもう生まれ変わらなくてもいいと思えるような最愛の相手に出会って死ぬこと。

『100万分の1回のねこ』は、この内容を下地にしてるような話もあれば、全然関係ないけど絵本の趣旨やタイトルを絡ませているような話もありました。人から見た猫、猫から見た人、タイトル通り100万回生きた猫のその中の1つの人生を取り上げているのでしょう。

登場する猫はだいたいどの話においても、奔放で、自分勝手なところがあったり、気分屋なところがあったり。猫の猫らしさがそれぞれの作家によって表現されています。

100万分の1回のねこ

¥737

100万分の1回のねこ
アンソロジー

佐野洋子『100万回生きたねこ』への、13人の作家によるトリビュート短篇集。

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【JKさんちのサルトルさん】哲学者サルトルが犬になって現代に転生したコメディ漫画

哲学というと堅苦しい響きに思えますが、ざっくり言ってしまえば「考えること」こそ哲学なのです。考えて、悩んで、迷って、信じて、こういった心の働きは日常生活の中にありふれたもの。

このような哲学を漫画として日常に絡めて、哲学者ジャン=ポール・サルトルを易しくコメディに仕立て上げた三巻完結漫画です。

実存は本質に先立つ。君を縛るものがあるならそれは君が作り出した君の中の真善美という虚像。その虚像の間違いを探し修正し続ける、それが人間になるということだ。 それはときに怖いし孤独かもしれない、だから生きる意味も分からなくなるかもしれないが、それでも楽しいから生きる。

サルトル
大間九朗

小説家。漫画原作者。『ファンダ・メンダ・マウス』で第1回「このライトノベルがすごい!」大賞・栗山千秋賞を受賞。漫画原作は『ロックミー アマデウス』『超人間要塞 ヒロシ戦記』『マズ飯エルフと遊牧暮らし』他。

あらすじ

美大を目指す女子高生巫(かんなぎ)マリオ。

進路に悩む中、ふと川でぶさいくな喋る犬(パグ)を拾います。実存主義者で哲学の巨人ジャン=ポール・サルトルが犬として現世に転生。

サルトルさんはパリに帰りたいがここは2021年川崎市。巫家に馴染んでたばこは吸うわ、酒を飲むわ。そんなサルトルさんが巫家の人々のお悩みを解決していく哲学コメディ漫画。

三巻で全体の世界観はつながっていますが、基本的に1~2話で完結するスタイルです。その中から個人的に印象に残ったエピソードを紹介します。

正しさは既製品ではなく特注品

マリオはデッサン教室からの帰りに親友であるカイリに会いました。

カイリはマリオのことが友達としてではなく、恋愛対象として好きです。度々その気持ちをそれとなく伝えるような行動を起こすが、マリオはそれにまったく気が付きません。ついに痺れを切らしたカイリはマリオに告白するが、普通とは違う愛の形に戸惑ってしまいます。

デッサンの先生(ゲイ)に相談すると、マリオ自身がカイリのことを恋愛対象として好きなのでなければ、どうしたって相手を傷つけない選択はあり得ないと言われます。好きなら受ける、いやなら断る、この二択以外はない。相手にとっては断れば失恋、同情されてもみじめ。そもそも現時点で他人に相談を持ち掛けたことがアウティングになってしまうことを自覚しなければいけません。

普通とはなんなのか。勇気を出して告白した友人に対する誠実な応えとは。

傷つかない答えを探すのは正しい答えを探しているとは言えません。大事なのは今後の二人の関係がどうあってほしいかを答えに導くこと。

人間は言葉でできている

普段は引きこもりがちなマリオの兄がみんなでBBQに来ました。雰囲気に馴染めない兄はこの楽しい場でも自分の居場所がないような気がしています。

そこでサルトルさんが誰とでも軽快におしゃべりする秘訣をアドバイス。

おしゃべりは発語による言語表現で、言葉は彩ることができます。古代ギリシアでは雄弁術なんてものがあったほど重要な能力。そこで生まれた技術がレトリックで、簡単に言えば直喩・暗喩・換喩などの比喩表現です。ほかに誇張法、列叙法などベストセラー作家であるサルトルさんならではの説得力を展開。

人間は思考も表出も言葉で行い、言葉なしでは生きられません。それなのにコミュニケーションがうまくいかないのは決まって舌足らずに原因があります。

だから時に言葉は相手に頼るしかありません。気持ちが伝わるように投げかける。

もしもうまくおしゃべりできないなら、半分は相手の責任だと思っておくと気が楽になります。

愛とは自由だ

あらゆる決断を先送りしてきたマリオの兄が、周囲の人たちによって外堀を埋められ、強制的に縁談が進められ結婚することに。

そこでサルトルさんが円満な結婚生活の秘訣をアドバイス。

ずばり「浮気をしなさい、お互いに」

夫婦円満には浮気と自由恋愛にある。結婚するほど愛しているならその愛は必然で素晴らしいもの。

しかし偶然の愛もあります。浮気も愛に変わりなく、愛そのものはすべてが美しいはず。

人間は自由な存在で、誰を愛し誰と肌を重ねるかも自由。自由の寄る辺のなさに不安を感じ、道徳というまやかしに自分をはめこもうとするのは欺瞞です。

書評

哲学者サルトルの言葉を、現代人のお悩みに回答する形で漫画にした哲学コメディ漫画。

サルトルの主張が現代的な感覚では絶妙にかみ合わない部分もあるが、毎話短いストーリーの中でうまい返しで問題解決に導いてると思います。小難しい哲学の話というのはなくて、私たちが日常生活の中で感じるよくある悩みを哲学的アプローチで諭してくれるようです。

そんなサルトルがぶさいくなパグ犬の姿で核心的な名言を残すギャップがシュールです。サルトルの性格面も強調されており、特に愛や性の話になると熱くなりすぎて下卑たゲス犬になります笑

哲学は難しいものとして捉えられがちですが、極論考えることが哲学で、普遍的な悩みに対する答えを導こうと努力するのは全て哲学です。そして人は生きている限り必ず悩みます。しかも皆同じような問題で悩むもので、絶対的な回答はないものの、哲学はそれぞれの個人が考える指針になってくれるでしょう。

JK一家の日常漫画に笑いと哲学を織り交ぜた新しいジャンルだと思いました。

JKさんちのサルトルさん

¥792

JKさんちのサルトルさん
大間九郎
さのさくら(絵)

ふいに出会ったJKのマリオさんと犬のサルトルさん。この出会いが、実存主義が、マリオさんと周囲を緩やかに変えていく。「上手く」生きたいなら別の本を、「ご機嫌に」生きたいなら、この本を。全3巻。

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【ゴリラ裁判の日】

2016年に実際に起きた「ハランベ事件」をモチーフにした異色の法廷サスペンス小説。

ゴリラと人間の関係性を通じて「正義」や「人間とは何か」という深いテーマを問いかけています。

須藤古都離

本作「ゴリラ裁判の日」で第64回メフィスト賞を満場一致で受賞してデビュー。他に「無限の月」「ゾンビがいた季節」など。

あらすじ

物語の主人公は、アメリカの動物園に住むメスゴリラのローズ。彼女はカメルーンのジャングルで生まれ、研究所で手話を学び、人間と意思疎通ができるほどの高い知能を持っています。動物園の生活の中で、オスゴリラのオマリと出会い、夫婦として幸せな日々を送っていました。

しかし、ある日、動物園で悲劇が起こります。ゴリラの囲いに人間の子供が落下し、オマリがその子供を守ろうとするも、興奮状態に陥ったと判断され、動物園側によって射殺されてしまいます。この事件をきっかけに、ローズは夫の死を不当だとし、動物園を相手取って裁判を起こします。

裁判では「人間の命と動物の命、どちらを優先すべきか」という倫理的な問題が争点となりますが、最初の裁判でローズは敗訴します。判決に納得できないローズは、「正義は人間によって支配されている」と感じ、再び裁判に挑むことを決意します。

「ゴリラを見に来るのに、私の中に人間を見てるんだよね。みんな私を見に来ているみたいで、実は違う。それぞれが見たいと思ってるものを見に来てる」

十章 195p ローズ

書評

斬新な設定と深いテーマ性が高く評価されています。ゴリラが裁判を起こすという一見シュールな設定ながら、物語は非常にリアルで感動的です。読者はローズの視点を通じて、動物と人間の違いや共通点、そして社会の不平等について考えさせられます。

単なるフィクションではなく、現実の事件や科学的知見をもとに構成されていて、読者に新たな視点を提供する良作といえるでしょう。

人間とは何か?

ローズのように高い知能を持ち、人間と意思疎通が可能な存在は「人間」とみなされるべきなのか。法律上「人間」の定義がないことを背景に、作中では人権や倫理の境界が問われます。

特に言葉を持つことを人間の特徴とするならば、ローズにとって言葉は魔法でした。目の前にいる誰かとお互いの気持ちを伝えあい、理解し合うための優しい道具です。一方で言葉が武器になることもあり、ローズは言葉の力を前にして動物であることの本能との間に揺れます。

裁判において人間という言葉を使うときの定義に、他国の人は含まれるか、肌の色が違う人は、ならばゴリラは?社会通念をアップデートするのは厳しいが、いままさに人間という言葉が包括する意味が大きく変わろうとしている場面を作り出しています。

動物と人間の命の価値

物語の中心には動物の命と人間の命の優先順位をどう考えるべきかという問題があります。オマリの射殺が正当化される一方で、ローズの視点を通じて動物の命の重みが描かれていました。

また、ローズの過去や日常生活が詳細に描かれることで、彼女が単なる動物ではなく、感情や知性を持つ存在として読者に強く印象付けられます。彼女の「ゴリラ格」ともいえる人格が、物語の説得力を高めているなと感じます。

法と正義の限界

法律が人間中心に作られている現実を浮き彫りにし、正義が必ずしも普遍的ではないことを示唆します。ローズの裁判を通じて、読者は「正義とは何か」を考えさせられます。

敏腕の弁護士ダニエルがローズに説教をする場面が印象的でした。ローズが最初の裁判で負けたときに司法制度を馬鹿にしたからです。

「公平な社会を築くために人間が努力している間、ゴリラは何をしていた?少しでも手伝ってくれたか?君みたいなよそ者に、司法制度を侮辱する資格があるのか?人間が正義を独占しているんじゃない、人間が正義を作りあげてきたんだよ。もちろん、誰のためでもない、自分たちのためだ。公正な社会を達成するために。自分が裁判に負けたから法廷を侮辱するってのは、僕たちみたいな司法に関わっている人間にとっては許せるものじゃないんだよ」

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【神様がうそをつく。】非公式ラジオドラマが制作されるほどファンを魅了する漫画

一巻完結漫画の中でおすすめの漫画であげられることが多い本作。私もお気に入りの一冊で、短いストーリーの中に複雑な心境やノスタルジックな雰囲気が詰まっています。

漫画があるのに電子書籍を買って、ラジオドラマCDや、ポストカードまで集めてしまいました。

小学生らしい無邪気さや、人の気を敏感に察知するけどうまく言葉に表せない不器用さが伝わってきます。ときに突発的な思い切った行動に出たり、自分が小学生のころを追憶するようなすごく丁寧な描写です。

尾崎かおり

コンテンツ

あらすじ

東京から転校してきたなつるは、クラスのカースト上位の姫川からプレゼントを渡されるが、照れ隠しで逃げるようにして断ってしまいます。それがきっかけでクラスの女子から無視されるように。

普段はサッカーをしており、とくに上手だったので人気者でした。

サッカーの練習終わり、家に帰る途中で捨て猫を拾うが、母がアレルギーのため家では飼えないと断られます。仕方なく外に出て猫を諦めようとしたところ、クラスメイトの鈴村に会い久しぶりにクラスの女子と会話をします。

真っ白で「とうふ」と名付けられた猫は、飼育費を払う条件に彼女の家で引き取ってもらうことに。

鈴村は父が置いて行った養育費でスーパーで食材の買い出しから家事まで、弟の面倒を見ながら生活のすべてをまかなっていました。未だに母に甘えているなつるは、そんな彼女の生活を見て驚きと戸惑いを露わにします。彼女たちが抱えていた秘密は、父が出ていったきり子供二人だけで生活をしていることでした。

夏休み。

サッカーコーチとそりが合わないなつるは、夏の合宿をさぼって公園で弁当を食べていました。

一方で鈴村に預けた猫の様子を見に行くと順調に成長しています。鈴村と弟の二人も相変わらず二人だけで貧しい生活を送っていました。

合宿をさぼった手前、家に帰れないなつるはそのまま鈴村の家に泊まっていくことに。鈴村たちの自立した生活ぶりと、自分が合宿から逃げ出して甘えた現状を比較して、なんと子供らしいことかと情けなくなりました。

こうして秘密の夏休みが始まり数日、ついに鈴村の父が帰ってくる日がきました。しかし約束の日時がすぎ、いくら待てども父は帰ってこない。

そしてなつるは鈴村家のさらなる秘密を知ることになります。

書評

たった1冊で完結する短いストーリーの中に、キャラクターそれぞれの感情や想いがパラパラと小さな粒となって広がっているイメージ。それでいて物語全体がばらけずに、きっちりとまとまっているのがこの漫画の良さです。

俗に言うと感傷的なエモさやノスタルジーがあって、自分が小学生の頃の不器用さや無力さが思い起こされるような感じです。非現実的な話であり、どこか現実味も帯びていて、この作品がもつ独特の魅力にからめとられました。

内容としては「小学生がそんなことしないだろう」とつっこみを入れられそうなところもありますが、あながち絶対にあり得ないとも言えない状況が絶妙です。

そして何よりもなつるの感情表現がとても奥行きがあって漫画的に素晴らしいのです。主人公の心を突き動かすエピソードや設定がいくつもあるのですが、状況に応じて表情に出したり、言葉にしたり、うまく表現できずに苦しんだり。

「神様がうそをつく。」意味ありげな含みのあるタイトル、これもまた最後に物語を綺麗におさめてくれました。

なつる、今までずっとあのこを守っていたの?

律津子

このセリフを読んだ瞬間泣きたくなります。

他人にはとうてい理解できない秘密を抱えて生きていくこと、唯一の理解者がいてくれる救い、これらに想像をはせると、感情移入が止まらなくなり、私にとって特別な漫画の一冊になりました。

サウンドドラマCD

この漫画のファンはたくさんいて、その中で声優の小林祐介さんと種﨑敦美さんのふたりがとくに好きで、それゆえに出来上がったサウンドドラマがあります。

非公式作品ではありますが公認となっている同人作品ですが、クオリティも非常に高く、この漫画のファンなら絶対に買って損はないものだと思います。

ボイスは8人出演、効果音などもしっかりとつくりこまれていました。

シーサイドショップでCDとダウンロード版を購入できますが、CD版には声優お二人のアフタートークも収録されています。

神様がうそをつく。

¥792

神様がうそをつく。
尾崎かおり

文装舎編集部が最も推している漫画。1巻完結なのに濃密な読みごたえで感動必至!